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1980年代より「日本と日本人」を 知るための仕事をライフワークとし、 全国を旅して、その土地で暮らす 人々のたたずまいと風景や 言葉を残してきた橋口譲二氏。 今回の展示作品や写真家として 日々抱いている問題意識について 語っていただきました。 3月6日 会場風景 写真右手前が橋口氏 図版1 《足立区から原宿に遊びに来た中学生 ‐『視線』より‐》 1981年 32.5×21.5cm © George Hashiguchi 図版2 《中村セン(87歳) -『夢』より-》 1995年 39.0 cm×30.0 cm © George Hashiguchi 1949年鹿児島県生まれ。 1981年、新宿の路上に集まる若者を撮った 『視線』で第18回太陽賞を受賞。 本展では、『視線』と、 明治・大正・昭和・平成と4つの時代を 生き抜いてきた各地の人々を撮影した 『夢』(1997年発表)から30点を展示。 |
『視線』と『夢』を展示して
『視線』を制作していたこの頃は、茶髪にしたり人前でたばこを吸うというのは少年たちにとっては大変なエネルギーが要ることでした。茶髪にすることはヒトツの主張だったと思います。ですが今の時代は茶髪が当たり前になり、十代の少年少女たちの恋愛が普通の日常になっています。今の少年少女たちは無意識に自覚なく街角にいる気がします。自覚がなければ何をしてもそこから学びが生まれないんじゃないか。そう思います。『視線』を撮っている最中は分からなかったけれど、作品にまとめた後に、『視線』の彼らが年をとった時の風景が見えてくるような気がしました。『夢』の作品に出てくるおじいさん、おばあさんたちは自分の風景の中にいます。風景は人生だと思います。『視線』の少年たちがどういう風景を手に入れるかわからないけれど、少なくとも彼らは自覚して街角に立つことで社会からのダメダシを受け、その分、人として成長すると思いました。自分の風景を手に入れられる。『視線』は、僕がフィルム現像とか、プリントなどろくすっぽ知らなかった頃の作品です。『夢』を制作していた時は、アシスタントが持ってきた技術ですが、表現に必要な技術を僕は手に入れていました。それから夢の頃は間違って僕の手元にもお金があったから宿代も気にしなくて済んだ時代でした。ですから本当は作品の緊張感が変わるはずなんですが、ここにこうして一緒に並べて展示してみると、作品の質に差がないことに気づかされました。経済的にも技術的にも何にもない時代につくった作品と、ある意味全てが充実していた時に制作したものに差がないことを確認できたことが、今回僕はとても嬉しいです。対象との距離感が昔も今も変っていない。きっと本能の部分で人の前に立っていたんだと改めて確認することができました。
僕の中には『視線』と『夢』を同時に展示する発想はなかった。学芸員の方の力です。そして今度の展示はこれからの作家活動を考える時に、新たな出発点になりえるのではないかな、と思っています。
「表現の自由」について
よくいろんな人たちが簡単に表現の自由という言い方をしますが、僕は表現の自由は本当は恐ろしいことで、ある意味自分の命と引き換えにして守るようなものだと思っています。だから簡単に僕は表現の自由を叫べない。思うに今、日本社会で叫ばれている表現の自由は欲望の自由のような気がしてなりません。僕は欲望と自由は違うと思います。この展覧会のサブタイトルが「人間のこころをめぐる表現」ということですけど、僕はいつもどこかひりひりしながら人間と関わっている気がします。表現することは感情が上がったり、落ちたりその繰り返しですね。年齢を重ねていく中で、自分の作品がどう評価されていくのかどこか不安なものをかかえて生きてきていました。ですけど作家人生はトータルしたところで考えていかないと人生を間違うな、と最近思い始めています。 「個人の歴史」を記録すること
たとえば先の湾岸戦争だとかも歴史ですが、歴史とはそういうことだけでなく、今皆さんとこうしている時間も歴史だと僕は思っているんです。歴史の表裏ですね。戦争や社会の事件は記録され歴史として残りますが、普通の人々の歴史はよほどのことがない限り記録されません。記録されないということは歴史として残らない。今展示している人々も本当は歴史の中にいる人たちです。僕の仕事の意味は、普通の人達をちゃんと撮り記録して残すことだと思っています。写真だけではなく同時に言葉も記録しています。記録することで、記憶を共有することができる。僕の仕事は皆さんと歴史と記憶を共有する仕事だと思います。
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制作 横浜市民ギャラリー
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作成日 2004年3月30日
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修正日 2004年8月19日
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