束芋 - 断面の世代

開催期間:2009年12月11日(金曜)から2010年3月3日(水曜)

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演劇公演 WANDERING PARTY 「total eclipse - トータル・エクリプス -」

演出家 あごうさとし からのメッセージ 思い返せば、私が取り上げた主人公と呼ばれる役の大半は、何かの犠牲になって葬られる運命にあった。豊田商事会長刺殺事件をモチーフにした今作品、「トータル・エクリプス」におけるナガイという役柄もまた、その範疇にある。
私は、1985年の豊田商事会長刺殺事件を、この事件に直接関係した報道陣や犯人のみならず、マスメディアによってこの事件を共有した全ての人々が共犯者に祭り上げられた、儀式的殺人事件だと断定している。一つの生け贄(ナガイ)を、天に奉納(殺し)することによって、高度成長のピーク期に溜まりに溜まった穢れを祓い、その翌年に到来するバブル時代、まさに現世の繁栄を謳歌するための供犠であったのだ。また、それは、顕われてはいけない闇が、光に重なった特別な時間でもあった。作品タイトルに「トータル・エクリプス(皆既食)」としたのは、その意である。
タイトルを象徴する小道具として、「証言集」がある。この証言集は、当時事件現場にいた、記者達の証言集で、一部黒く塗りつぶされたものだ。この黒く塗りつぶされたところに何が書いてあるのか。それをめぐる物語でもある。この国のマスメディアの記者クラブ制に代表される既得権益構造に雁字搦めにされ統制された情報のベールを剥ぎ取り、真実をあぶり出そうとする若い記者達の物語でもある。古い太陽が死んで、新しい太陽が生まれる神話である。
今作品の登場人物は全て新聞記者だが、その記者達は、ナガイ及びナガイにまつわるその他の人格(ペルソナ)も演じる。特にナガイの役柄(ペルソナ)は、俳優から俳優へ、あたかも誰かに穢れをなすり付ける「鬼ごっこ」のようにリレー方式に演じられていく。そうして、最後にナガイを演じる新聞記者が、生け贄となって殺されるのである。 
黒の装束、移り行く配役(ペルソナ)、一人の言葉に複数の声を重ねる発話、これらの劇構造は、「失われた世代」としてとりあえず片付けられている、私たちの浮遊する魂魄そのものでもある。 しかし一方、所作と発話を極端に抑制する事で、本質的な個を抽出するはずである。抽出された個は、それぞれの輪郭を体感的に強く意識するはずである。抽出された個は、自らの生きる道を定めようと躍動し始める。
従って、これは殺人事件を取り扱った、これから生き抜かねばならない私たちの再生の儀式となるのだ。

あごうさとし プロフィール

劇作家・演出家。同志社大学法学部卒業。広告会社勤務の後、現在に至る。第3回公演以降全ての作品の脚本・演出を担当する。京都府医師会への作品提供、ラジオドラマの脚本執筆、大学講師を複数年務めるなど劇団外の活動は多岐にわたる。「トータル・エクリプス」は日本演出者協会主催「若手演出家コンクール2007」で最優秀賞を受賞。