2006年09月13日
9月9日(土)、「邦楽、美術館をジャック!」の最終回が、中村仁美(なかむら・ひとみ)さんの篳篥(ひちりき)の音色とともに始まりました。このイベントは、「ジャック」の名にふさわしく、美術館のいろいろなところから奏者が登場する仕掛。写真展示室前の回廊から「日本×画展」の展示室へと進んできた篳篥の音が消える頃に、仲嶺伸吾(なかみね・しんご)さんの歌と三線が響き出す、といったぐあいです。奥田雅楽之一(おくだ・うたのいち)さんの箏(そう)だけは事前の設置が必要なため、みなさん、箏の前でわくわくと待機するかたちとなりました。
身体のなかに楽器をもっている人がいるのだなと思わせる不思議な声で、中上清さんの展示空間を広げていくように歌いあげる仲嶺さん。

スクリーンの背後に坐り、自身のシルエットと箏の音色で小瀬村さんの《四季草花図》にとけ込んだ奥田さん。

中村ケンゴさんの1点1点が音符とダンスをはじめそうな曲を軽快に奏でる中村仁美さん。

「日本×画展」を舞台に進む音のバトンタッチは、エンディングのセッションへと収斂(しゅうれん)していきました。
近代日本画と現代アーティストのコラボレーションである「日本×画展」は、横浜能楽堂と共同で企画した「ジャック」によって、美術と邦楽という2つの芸術形態が共鳴する場に発展しました。美術館が社会に在る意味が少しずつ変質していく時代にあって、そこで催されるイベントも色とりどりです。「日本×画展」の催しはこれでおしまいです。次回企画展「アイドル!」では、さて、何が飛びだすことやら?
(横浜美術館学芸員 坂本恭子)
2006年09月06日
邦楽、美術館をジャック! No.2
9月4日(月)の夜、尺八の音色がグランド・ギャラリーに響いて、「邦楽、美術館をジャック!」の2回目は、始まりました。
初め、「日本×画展」の展示室前に三々五々たたずむ人々には、音自体がまるで妖しい生き物であるかのような神秘的な音色が聞こえてきても、奏者の姿は見えませんでした。やがて、尺八を演奏しながら回廊をゆっくり進むジーンズ姿の藤原道山(ふじわら・どうざん)さんが現れました。藤原さんが、展示室を巡りながら、時に力強くシャープに、時に繊細で柔らかく尺八を奏でると、「これが尺八?」と思えるほど透明感のある音色や、倍音を含む複雑な音色など、多彩な音が繰り出されました。
藤原道山さん
つづくは、仲嶺伸吾(なかみね・しんご)さんによる沖縄の歌と三線(さんしん)の演奏。少しあらたまった琉球衣裳に身を包んだ仲嶺さんは、小瀬村真美さんの展示セクションにある畳に座ったり、松井冬子さんの作品前に正座したりして、三線の暖かみのある音色とたっぷりした声量で、琉球音楽が持つ独特の音階による曲を演奏しました。
仲嶺伸吾さん
三人目のソリストは、中村仁美(なかむら・ひとみ)さんです。1000年の時を越えた篳篥(ひちりき)の音が、空間をまるごと包み込むように、人々を引きこみました。
最後に、三人によるジャム・セッションが、企画展示室ホワイエに展示された藤井雷さんの《絵手紙》の前で行われました。仲嶺さんは、少しカジュアルな衣裳に着替えて素足で登場。三線に、尺八や篳篥が呼応した「安里屋ゆんた」が演奏されると、観客の中に思わず踊り出す人もいて、会場は琉球モードで盛り上がりました。
三者によるジャム・セッション
舞台も客席もなく、奏者が会場を移動するこのイベントは、作品を見ながら、演奏者の息づかいを目の当たりにすることができます。まさに、わくわくするライブの醍醐味。観客は客席から立ち上がって大声を上げることはないけれど、会場には、和楽器の音による不思議な一体感が醸成されていました。
「邦楽、美術館をジャック!」は、9月9日(土)が第3回目、最後となります。出演は、琴の奥田雅楽之一(おくだ・うたのいち)さん、歌・三線の仲嶺伸吾さん、篳篥の中村仁美さんの顔合わせです。またひと味違った新鮮な世界が生まれることでしょう。こちらもどうぞお楽しみに。美術館のミュージアムショップと能楽堂でチケット(2000円)を好評発売中です。是非、ご来館ください。 (横浜美術館学芸員 八柳サエ)
2006年09月03日
アーティスト・クロストーク 藤井雷×松井冬子
さわやかな風が立ちはじめた好天の9月3日(日)午後2時前、「日本×画展」の展示室前は、既に立錐の余地もないほどのお客様が集まり、熱気に満ちていました。この午後、最後のアーティスト・クロストークが開催されました。お待ちかねの皆様の前に、この日の主役、松井冬子さんと藤井雷さんを御案内すると、和装のあでやかな松井さんの姿に、場内から溜息(ためいき)が漏れたように思えました。
展示室前のクロストーク会場
トークはまず、お二人の制作過程の違いに関連して、下図の話から。
松井さんは、描こうとするイメージを明確にさせ、必要と考える写生を行うことから制作が始まるといいます。《世界中の子と友達になれる》(2004年)は樹海に泊まり込んでの写生、尾長鶏(おながどり)を描いた新作《引き起こされた不足あるいは過剰》のためには、やはり尾長鶏を飼う人を訪ねて泊まりがけで写生をするという厳格さです。それから取りかかる下図は推敲(すいこう)を重ねて仕上げる、「制作上最も重要なプロセス」と松井さん。大下図、本画へと展開して完成度を極めます。一方の藤井さんは、下図は一切描かないといいます。一発勝負、筆の走るままに描くのが藤井流、生な自分がその筆跡にさらけだされていくかのようです。
最初は、少々緊張していた様子のお二人でしたが、生活スタイルの違いに話題がおよんで、藤井さんが朝型、松井さんが夜中に集中して描く徹底した夜型と判ると、二人の好対照が会場の笑いを誘う和やかなムードになりました。
松井冬子さん
藤井雷さん
最後に会場から質問を受けました。「光についてどう思われますか」「死についてどう思われますか」など、抽象的な質問が多い印象でしたが、お二人は真剣に答えていました。
まだお二人の話を聞きたいという、なごりおしい雰囲気の中、予定時間を過ぎたところでトークは終了しました。引き続き、カフェ小倉山でサイン会が行われ、長い列を作ってサインを求める方々は自分の番になると、松井さん、藤井さんに直に接して言葉を交わし握手をし、贈り物を渡すなど、短い時間をそれぞれに、貴重な機会として充実させている様子がうかがえました。
本展のクロストークは、作品を前にしてアーティスト同士が語り合う会として企画されました。今回は、大変大勢の方にお集まりいただけて盛会でした。一方で、展示室前の会場は少々窮屈で、作品保全上の気遣いもありました。ご参加いただいた皆様に最後までご協力いただき感謝申し上げます。(横浜美術館学芸員 八柳サエ)