「イサム・ノグチ 世界とつながる彫刻展」は6月25日をもちまして横浜での会期を無事終了いたしました。お陰様で大勢の方々にご観覧いただきました。担当一同心よりお礼申し上げます。
今頃になって終了のご挨拶というのも遅すぎるとおしかりを受けるかも知れません。実は担当学芸は最終日から翌週にかけてが大仕事で、25日の閉館と同時に待機していた美術品輸送の人たちと会場の片づけ準備に入りました。翌日からは数日かけて作品の点検と梱包を行いました。ノグチの作品はご覧いただいたように様々な大きさ、形状、材質で、ものによってはパーツを複雑に組み合わせてあります。一見小さなものでも重量がけっこうあるため、1点毎に設置したときと変わりがないことをチェックしながら梱包する作業には、多くの人手と時間がかかります。作品毎に梱包の仕方も異なります。専用の木枠にサラシでがっしりと固定するもの、クッション内装付きの木製のケースに収めてふたをビスでしっかりと密閉するものなど様々です。今回初めて館外に貸し出す≪真夜中の太陽≫は、移動する前に表面をサラシと毛布等で厳重に養生・補強して、本体と台座部分がずれないようにサラシを巻いて固定し、前後からハンドフォークを差し込んで、そろりそろりと1Fまで運びました。搬出口近くまで持ってきたところで本体部分を天井クレーンでつり上げて木箱に収め、台座部分も同様にして別の木箱に収めます。この作品は本体と台座をあわせて2t近い重量ですので、石彫輸送の専門の方に運んでいただきました。ちょっとした気のゆるみも許されず、立ち会う我々も大変緊張する作業でした。梱包の済んだ76点の作品を美術品専用トラックへ積み込む作業だけでも丸1日を要しました。幸い事故もなく天候にも恵まれ、トラックに同乗して無事に次の会場の滋賀県立近代美術館に送り届けることができました。
この展覧会に限らず、美術展は基本的に1回限りのものだと筆者は考えています。ある会場で、一定の文脈に基づいて集められた作品たちが、ある考え方の下に、分節された会場内に配置され、照明されます。作品たちはそれまでは別の場所のそれぞれの環境で保存されていたものですが、美術館の展示室で顔を合わせて、一緒になってひとつの空間を作り上げていくのです。こういう空間構成で、この作品とあの作品が同じ視野の中に現実に眺められる、そんな体験は、画集やメディアでは得られないものです。そしてまた、展覧会が終わってしまえば、全く同じ組み合わせの作品ラインナップを後から再現することはほとんど不可能なのです。たとえ同じラインナップであっても、会場が変わればそこには別の空間が立ち現れるのです。観る人にとっても、同じ作品を今観るのと、10年後に観るのとではきっと印象や感想がちがってくることでしょう。ですから展覧会は作品にとっても、観る人にとっても、学芸員にとっても一期一会だと思います。
今回の展覧会と関連事業を通して、いかに多くの方々がノグチの作品に関心を寄せ、ノグチの人と芸術から心の糧を得ておられるかをつぶさに学ぶことができました。会期末に実施した来館者出口調査では、担当したボランティアのみなさんが、回答して下さった方々の知識の豊富さ、理解の深さに驚嘆したと口々に話しておられました。
「イサム・ノグチ探険隊」と担当学芸のレポートをつづってまいりました「イサムズ・ウィークリー」は今回で終了いたしますが、横浜・神奈川ゆかりの彫刻家、横浜美術館の収蔵作家イサム・ノグチへの市民ボランティアと学芸員による取り組みはこれからも何らかの形で継続していきたいと考えています。どうか皆様のご声援とお力添えを今後もよろしくお願い申し上げます。
横浜美術館所蔵のイサム・ノグチ作品6点につきましては、滋賀県立近代美術館、高松市美術館での「イサム・ノグチ 世界とつながる彫刻展」に貸し出しとなります。当館コレクション展での再展示は11月末頃の予定です。
最後になりましたが、展覧会をご覧いただいた皆様、探険隊の活動にお力添えをいただきました皆様、レポートを寄せてくださいました市民ボランティアの皆様に心よりお礼申し上げます。そして、「イサムズ・ウィークリー」をご愛読下さいましてありがとうございました。(中村尚明)