
「関係項──見えるもとと見えないもの」
撮影:柏木智雄
「モジモジくん」みたいな黒タイツに全身を包んで回転した屋代さんは、李さんの作品「照応」に文字通り「照応」するモノクロームの影と化して、渋くてかっこいい写真を作り上げました。先輩アーティストへのオマージュとして、また後続するアーティストからの批評として、エレガントな出来映えの作品です。李禹煥展のご鑑賞の帰路に、「オルタナティヴ・スペース」でご覧下さい。 倉石信乃(担当学芸員)

図版キャプション 屋代敏博さんの写真作品《回転回》(部分)。李禹煥さんの油彩画
《照応》(1994年作)の前で回る屋代さん自身が写っている。
ここで紹介する屋代敏博さんは、横浜トリエンナーレ2005の参加アーティストでもあります。トリエンナーレ会場のあちこちに設置されたステレオ写真の覗きめがねをご覧になった方もおられるでしょう。あの作品を制作したのが、屋代さんです。さまざまな風景や建築の中に入って屋代さんがゆっくり回転します。これを長時間露光で撮影すると、屋代さんのからだは空間に半ばとけ込んだ不分明な回転体として写ります。身体・空間・時間といった現代哲学にも通じるような深いテーマをはらんでいると言えるでしょう。このシリーズは「回転回」と名付けられています。
今回、屋代さんは、その制作の場のひとつとして、李禹煥さんの作品が並んでいる展示室を選びました。回転するボードの上にうつ伏せになって屋代さんはゆっくりと回りました。李さんの作品空間に屋代さんの身体が、どんな風にとけ込んだのか、ちょっと気になります。屋代さんにとって納得のいく出来映えであれば、このときの作品は当館のオルタナティブスペースで公開されます。また、このオルタナティブスペースでは、訪れた皆さんが回転して、「回転回」シリーズに参加することもできます。是非、李禹煥展ともども、こちらのプロジェクトもご覧ください。 柏木智雄(担当学芸員)

李禹煥さんの絵の前で回る屋代さん。
撮影:柏木智雄
ところで、「もの派」とは何かご存じですか。 1960年代末から70年代半ば頃まで、日本の美術界に、自然素材や工業用の部材などをほとんど加工しないで、ある空間に配置して作品を成立させる一群の若いアーティストがあらわれました。この作家たちが後に「もの派」と呼ばれるようになり、現代美術の重要な動向のひとつとして注目されるようになります。李さんも菅さんも、この「もの派」の中心的な作家として活動をはじめました。
鼎談の冒頭、松井さんが、李禹煥さんの過去の著述の中から、「もの派」や李さんの作品について考えていく上でヒントになるキーワード(たとえば、「もの派」という言葉そのものや、出来事、構造といった用語)を選び出し、話題を提供しました。これをうけて、李さん、菅さんが、それぞれ、「もの派」という言葉の出自や当時の活動のこと、共に影響を受けた美術家・高松次郎の創作のことなどについて語り、さらに
「あるがまま」あるいは「無名性」といったご自身の評語や「作品における内側と外側」、「しぐさ」などの言葉をめぐって、活発な意見が交わされました。質疑応答の時間も加えますと、予定を超過して2時間ほどの充実した会となりました。
当日、松井さんが交通事情により遅れて到着し、満席状態のレクチャーホールで、ご来場いただきました皆様をお待たせし、本当に申し訳ありませんでした。今一度、お詫びいたします。 柏木智雄(担当学芸員)

右から李禹煥さん、菅木志雄さん、松井みどりさん。
撮影:柏木智雄

赤いサビが目立つ「関係項──6者会議」の鉄板。

ボランティアの皆さんと李禹煥さん(右から3人目)。左端は担当学芸員。
撮影:柏木智雄
]]> 今回の展覧会に出品される彫刻12点は、1点をのぞいて、すべて石と鉄材(鉄板・鉄棒)を素材にします。もっとも大きなものは、高さ3メートル、横幅18メートルにもおよび、この巨大な鉄の壁のような作品は、美術館の前のグランモール公園に設置される予定です。
大量の石と鉄材が必要になるため、たいへん苦労しているのですが、さいわい、石については、横浜市内に営業所がある渡辺石材店様が、大量の白御影石を無償でご提供くださることになりました。
去る8月6日(土曜)、李禹煥さんとともに、真壁の採石場に石を選びにいきました。この採石場にうかがうのは、すでに3度目で、李さんもこれで2度目となります。渡辺石材店の社長さんが運転される車に乗り込み、約2時間半かかって、真壁に到着しました。
この日は、李禹煥さんの芸術を紹介する番組をつくっているNHKの取材班も合流しました。ものすごい炎天下、李さんは足場のわるい岩の上によじのぼり、およそ30個の石に赤いビニールテープで印を付けていきました。後で渡辺石材店の社長さんにうかがったら、1個8トン近い巨岩も含まれていたようで、この重さの石はちょっとグランモール公園に設置するのは、むずかしいかもしれません。
ここで選ばれたごつごつした石は、グランモール公園に設置される鉄の壁のような彫刻に使われます。どのような作品になるのか、ご期待ください。 柏木智雄(担当学芸員)