Catch UP? イベントレポート

創造界隈で行われたイベントを記録写真でレポート。

YCCセミナー 第3回:シブヤ大学

土地の地域資源を生かして、それを街づくりやコミュニティ形成に応用している全国各地の取り組みをご紹介するYCCセミナー。第3回は新しい学びのカタチを実践し、全国から注目を集めているシブヤ大学をご紹介。

日時: 2010年1月24日(日)
会場: ヨコハマ・クリエイティブシティ・センター
講師: シブヤ大学学長 左京泰明さん

みなさん、こんにちは。シブヤ大学、学長の左京です。今回、「シブヤ大学、新しい学びの形を創造するビジョンとシステム」というお題をいただきました。本日は、2006年にスタートして現在4年目を迎えるシブヤ大学の、僕らがいろんな実験を繰り返しながらやっていることの経過報告という形でお話したいと思います。何か少しでも皆さんの参考になるところがあればと思っています。

改めて自己紹介します。僕は福岡県中間市の出身で、早稲田大学入学を機に上京しました。学部は文学部なのですが、子供の頃からずっとラグビーをやっていて、実は早稲田大学もラグビー部に憧れて、東京に来たという感じです。なので、あまり大きな声では言えませんが、授業に真面目に通うというより、ずっとグラウンドに居た、というような感じです(笑)。

卒業後は住友商事という会社に入社しましたが、NPOという事業に興味を持ち、2005年にグリーンバードというNPO法人に入りました。すると、39階建のビルのオフィスワークから、表参道の灰皿掃除が主な業務になった。NPO、社会起業家など、最近いろいろ言われますが、NPOの現場の仕事というのは派手な仕事だけではありません。地味なところも多く、会社を辞めてNPOという分野で一旗あげてやろうと飛び込みましたが、毎日灰皿掃除をしながら「俺の人生、大丈夫かな?」(笑)、そう思うこともしばしばありました。でも、やっぱり、パブリックな目的を持ち、それを現実の形にしていくNPOの事業をやってみたいという思いで燃えていました。

グリーンバードではNPO法人のマネジメントと実務を経験させてもらいました。シブヤ大学というプロジェクトにも出会ったのもこのグリーンバードです。現在は、NPO法人シブヤ大学の学長という仕事と、NPO法人グリーンバードの監事をやらせていただいています。今後は、非営利組織の経営者として一流の人材になっていきたいと思っています。

ではまず最初に、「シブヤ大学」という事業の大きな3つの領域についてお話をしたいと思います。

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NPOのマネジメントを考えるときに、大きく3つの分野があると僕は思っています。まず、「日々の活動やプロジェクト」。それから「組織」、NPOの人事についてです。正社員やあるいはパートタイムのスタッフやボランティアスタッフ。NPO組織のマネジメントというのは、実は一般の企業にはあまりないようなマネジメントで、非常に複雑で、形式化もまだされていません。しかし、例えばボランティアスタッフのマネジメントといった部分はNPOにとって非常に重要なところです。そして3つ目が、やはり人が動くとなるとお金が必要という部分で、「財務」のこと。活動を維持する収入や収益をどうやって作っていくか。この3点が非常に重要なところだと思っています。

そして、これらの中心にあるのがNPOとしての使命です。「使命」はNPOの存在意義だと言われます。シブヤ大学も今は4年目ですが、この使命の部分を最初に作りました。でも、「活動当初から今に至るまで常に一貫したものを持ち続けている」わけではなくて、やはり活動しながら修正したり、新しいものが加わったりという流れを経ています。ただ、やはりあった方がいいものです。つまり、例えばシブヤ大学で、あるテーマの授業をやりたいなあと思ったとする。そういう時にもやはりこの3つの観点から実際にやるべきかどうかということを、まず考えます。自分たちが本当にやりたいこと、やるべきだと思うことに近づいているだろうか、実行するに足る人材や資源はあるだろうかと。加えて、それをやることによる収益性というのはいったいどうなんだろうかということ。この3点について考えながら個々のプロジェクトに取り組みます。

ということで、今日はこれから「プロジェクト」、「組織」、「財務」、大きくこの3点に分けてお話しできればと思っています。

シブヤ大学とは?

『シブヤ大学は、地域密着型の生涯学習ネットワークとして、地域の資源を最大限に生かした学びの場作りを通して、人々の豊かな生活とコミュニティビルディングに貢献します』。これが現在のシブヤ大学のミッション・ステイトメントです。シブヤ大学は、誰に対して、何を行うのかということを言葉にしたものです。言葉にしているのには意味があって、まずは、外部の皆さまに分かりやすくお伝えすること。もう一つは内部向け、つまりシブヤ大学にかかわるスタッフ向けなんです。

2009年、ちょうど活動3年目を迎えようとしている頃に、ボランティアも含め関わるスタッフ数が100名を越えました。新しい人もいれば、長くその組織に関わる人も出てくる。その中で、初期から関わっていたメンバーの間ではシブヤ大学の活動に対する理解が暗黙的に積み重なっていたものが、新しい人が入ってくることによって、シブヤ大学って一体何をするのか、あるいは何を大事にするのかということが、分かりにくくなってきた。混乱が生じてきたんですね。例えば、あるプロジェクトをやりたいという提案に対して、そもそもシブヤ大学として、それが良いのかどうか、こういったことも分からなくなってきた。それで、「どうしたものかなあ」と。少人数で家族のようにやっていたころは、わざわざ言葉にしなくても共通理解が成立していた。けれど、どんどん新しい人が入ってくる中で混乱が生じた。では新しい人を入れなければいい、という方向もあるでしょう。でも、それでは活動が広がっていかない。だとすれば、それを受け入れなきゃいけない。そういうことで、あらためて現在の自分達の活動を言葉にしたのがつい昨年のことです。だから、実は先程紹介したものはスタート時からのものではありません。活動を重ねていく中で、必要だから作ったものなんです。また今の時点でスタッフがみんな暗唱できるかと言うと、たぶんまだ誰も言えない。もっと言葉をブラッシュアップしたり、いろんな工夫が必要でしょう。でも、まずはこういったものを置く。そして、何か問題が生じた時にはここに照らし合わせながら、じゃあ自分たちはどうすべきかを考える材料にする。そこから始めています。

現在設定している目標はシブヤ大学の学生登録者数を2020年までに20万人にすること。現在は約1万人です。渋谷区の人口が19万人程度なので、ぜひ街の人すべてがシブヤ大学というサービスに関わるようにしていきたい。それから、サービスに関わってもらうだけじゃなく、それを維持し、支え、発展させていくサポーターや仲間をどんどん増やしたいなあと思っています。

2つのコンセプト

では、シブヤ大学とはそもそも何だろうか。まずはシンプルな2つのコンセプトを御紹介します。

「街がまるごとキャンパス」

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1 つ目のコンセプトが、「街がまるごとキャンパス」です。通常、学校を新設するとなると、校舎はどうする、教室はどうする、先生はどうするっていう話になってくると思うんですけど、シブヤ大学の場合は、「特定のキャンパスを持たない」。街がまるごとキャンパスになります。例えば商業施設とか、お店、レストラン、カフェ、公園、神社とか、どこでもいいです。その街全体が大学のキャンパスだったらって、みんなにイメージしてもらうわけです。なので、どんどん街の方に知ってもらい、この活動に参加してもらうということが大切です。シブヤ大学の活動をいいなと思ってもらえると、例えばお店の方だったら、「この時間だったら空いているよ、使っていいよ」とか、小学校の校長先生なんかが「ここを使ってみないか」とか、もちろん地域とも協力しながらですが。それに、公園でもいいじゃないか。あるいはお祭りに参加するってことを授業として捉えてみようとか。そんなふうにしながら、場所もマネージしています。

これは表参道です。フラッグをよく見てもらうと、シブヤ大学のマークが見えるかと思います。シブヤ大学は2006年9月に始まったので、毎年9月がメモリアルマンスなんです。それで毎年9月にシブヤ大学のフラッグを表参道に掛けさせていただいています。目的の一つは、シブヤ大学のことを知らない人に改めて知ってもらうということがあります。ですが、もう一つの重要な意味、やはり、ここに旗を掛けさせていただけるというのはどういうことか。ここに僕らはすごく大事なところがあると思っています。つまり、地域の方にシブヤ大学の活動を応援してもらっているってことなんです。表参道にフラッグを掛けるということは単に金銭的な意味じゃなく簡単ではありません。自分たちの街のメインストリートに掛かる旗の内容は、単なる企業宣伝や、街の品格を落とすような内容がないか、街の人たちが日頃しっかり管理しています。そんななかで、シブヤ大学の旗を掛けさせてもらえた。1周年、2周年、3周年と、協力いただけましたが、僕らとしては、活動をPRできることだけじゃなく、街の人に受け入れてもらえるというところに、非常に意味があると思っています。

「誰でも先生、誰でも生徒」

もう一つのコンセプトは、「誰でも先生、誰でも生徒」です。通常、学校を考える時、「先生」はいつも先生をやっていて、先生の資格を持って、あるテーマについてずっと授業をしてもらう、というのが普通の授業だと思います。シブヤ大学の場合は、もう「誰でも先生、誰でも生徒」なんです。だから、人の数だけ授業がある。例えば街で古くから着物屋さんを営んでいる方が着物の授業をやってもいいし、おばあちゃんが戦争体験の授業を8月にやってもいい。あるいは子供が大人のための授業をやってもいい。

実は子供が先生になる授業を実際に行いました。表参道に有名な女の子がいて。小学校1年生なんですけど、6歳の時に単身フランスに留学、現在は個展なんかも開いているユニークな女の子です。 大人がいろんなことを質問して、彼女が答えていく形で進めたんですが、大人は頭でっかちな質問するんですよ。「大人になると時間の進むスピードがだんだん速く感じるようになるんだけど、7歳って時間の流れって、どう感じるの?」とかって、質問するわけです。大人としては「ゆっくり感じる」という答えをイメージしているんでしょうけど、彼女の答えは「よくわかんない」(笑)。予定調和的な質問が全く通用しないので、大人は考えるわけです、困ったと・・・。で、違う角度で質問していくんですね。「留学してた時どうだった?」とか、何が あったのとか。で、ちょっと答えたらそれをふくらませて、話が盛り上がるような質問を模索していく。すると、今までお母さんも聞いたことのないような話もしてくれるようになるんですね。生徒側の大人が必死に考えて、こうしたらいいんじゃないかって模索しながらやらないと進んでいかないような授業でした。 その意味でも面白かったです。ある日の授業では、彼女から「今日の授業は『道徳』、テーマは“笑顔”。」って言われて、ひとりひとりに紙が配られました。「じゃあこれから、みなさんに自分が笑ってる顔を描いてもらいます。」そして大人が一生懸命、用意された色鉛筆とかで描くんですね、自分の笑顔を。「わからなかったらここを見てね」って言われて、そこには鏡があって。大人が自分でウウッとか笑ってみたりして、必死に描くんです。それで描き終えたものを集めて、「はい、じゃあ、みなさんがどういう時に、この顔になるか教えてください。」と。みんな答えるんですが、また大人だからあれこれ考えるんですね。自分がどういう時に笑うかを真剣に考えて、例えば、「自分が興味のある分野で未知なるものに出会ったとき」とか言うんです。で、最後に先生に「じゃあ 先生はどういう時に笑うんですか」ってみんなが聞いたら、「んー、おやつ。あ、お年玉も!」って(笑)。大人は一同、「だよねー」って。ハッと気づくんです。いかに、“あるべき答え”みたいなものを言おうとしていたかっていうことに。「おやつだよねー」ってみんな顔を見合わせていました。

どんなところにも面白い学びがある。だから、テーマも何だっていいし、先生も誰でもいいんです。その人の一番いいなって思うところを授業という場に仕立て、提供するのが僕らの授業です。

地域資源を生かした学びの場づくり

よく施設をお借りしたり、授業をやらせていただくところに明治神宮さんがあります。渋谷の街の大事な財産です。お祭りの授業、和室でお茶の授業、そして明治神宮の森の授業、四季折々のテーマでやらせていただいています。僕も知らなかったんですが、あの神宮の森は89年前にできた人工森だそうです。100年後には人が手を掛けずに自然に循環するという設計がなされた人工の森、すごいですよね。もちろん100年前の人は100年後生きてはいないですよね。生きてはいない時に向かって計画が立てられたものが、今89年目。そして、時を経て代々管理してらっしゃる方。当時の設計図も残っていて、こういう木の下にはこういう木を植えて、その成長はどうだから、あるいは日照時間がどうだから100年後こうなっているということが計算されている森なわけです。すごいなあと思います。最近エコが流行っていますよね、でも、渋谷には、もう100年も前から実践されていた明治神宮さんがある。これは何よりの環境の授業だし、結果として、街が好きになったり楽しくなる授業だと思っています。また、毎年秋には、明治神宮の森でドングリを拾う授業もあります。明治神宮の森でドングリを拾い、それを育てて、全国に植樹をすることをやっていらっしゃるNPOがあり、そちらの方々と一緒に授業をやらせてもらっています。

また、かつて料亭街だった渋谷の丸山町。昔は500人くらい芸者さんがいたそうで、今も現役の方が2人いらっしゃる。これは体験してみないと!ということで、「今夜は無礼講!」なんてタイトルで授業をやっていただきました。

先生は東急ハンズさんの店員さんという自転車の授業もやりました。東急ハンズという会社はすごく面白くて、売り場の店員さんが、みんな先生みたいなんです。1つ訊くと10くらい教えてくれる。1フロアごとに授業やろうかって話をしているくらいです。東急ハンズさんからスポンサードをいただきながら授業をやらせてもらっています。企業さんからのスポンサードっていうのはシブヤ大学の大事な収益源になっています。企業にとっては、渋谷という地域への貢献や、新たに東急ハンズの魅力を知ってもらったりっていうメリットもあるというわけです。

体育の授業としてドッジボールもやりました。日頃、僕らが授業を作る時は2~3カ月くらいかけて企画します。どういう場所で、どういう流れで、どういう人数でとかを考える。でも、体育の授業はとってもシンプルで、ただドッジボールをやったんですが、すごく盛り上がって、その後みんなで飲みに行かれてました(笑)。

これは地元の和太鼓チームです。その街に暮らす人が、地域の活動にシブヤ大学の「授業」をきっかけにして参加して、またそこに接点ができていくような授業も大切だと思っています。

これらのように「地域資源を生かした学びの場作り」が、シブヤ大学が開校以来、毎月毎月行っている、一番大事にしているサービスです。

シブヤ大学に集う人々

参加者は一体どんな人かということですが、半数以上が女性です。20-30代が多いですね。生涯学習というと、ご高齢の方が多いイ メージかと思いますが、シブヤ大学の場合は若い方が非常に多いです。そして、働いている人が多いですね。だから「20-30代の社会人で女性が多い」、そんなコミュニティになっています。で、4年間で400講座くらいやっていて、毎月どんどん新しい授業をやりますから、どんどん先生が増えていって、現在は394人くらい街の先生がいます。のべ参加者数は約1万4千人で、最近は1授業の申込倍率が2.6倍くらいになっています。これは嬉しい一方ですごくもどかしいところでもあります。アンケートの結果を見ても、授業の数をもっと増やしてほしいという声が一番多い。ただ、何か新しいことをやるには、人やお金の問題があります。現状では月11コマ~12コマくらいが限度で、それ以上はやっぱりできないという体力なんですね。なので、シブヤ大学のことを知ってくださってどんどん新しく人が来てくれるのは嬉しい。でも、やはりまだ授業数に限界があるので、倍率が上がってしまうのは、嬉しいと同時に早く解決しなくてはならない課題でもあります。

もうひとつ、具体的な授業の事例を紹介します。表参道で毎年夏にやっているよさこい祭りを題材に、 実際に、地元のよさこいチームに入って練習を積んで本番まで出るっていう一連の流れを授業にさせてもらったものです。背景には原宿・表参道という地元のチームの人数が減っている現実があります。それで、せっかく主催なのだからもっと地域の人が多く出てくれればいいなあっていうところから始まりました。まずシブヤ大学でよさこいの授業ガイダンスをやって、そこから、実際に本番まで参加したいという人に手を挙げてもらうと10名くらいが集まってくれました。そこに参加してくださった、Aさんという方の話をしたいんですが、この方は最近東京に来られて会社勤めをなさっているんですが、なかなか周囲と打ち解けられない。自分の居場所がないっていうのかなあ、東京は暮らしにくいなって思っていたところで、シブヤ大学を見つけて、授業に参加するようになり、このよさこい祭りの授業に申し込んでくれた。人見知りするので、まさか本番まで参加してくれることはないだろう、と、その授業の担当者は思っていたそうです。でも、彼は勇気を持って次の練習会にも来てくれて、活動に徐々に参加するようになっていった。そうすると、例えば誰か練習を休んでいると必ずこの彼から連絡が来るようになったりして、だんだんチームの中で、彼自身のキャラクターが変わってくるんですね。おどおどしていたのが、楽しそうになり、最後の頃にはみんなに声を掛けて引っ張るというふうに変わっていったんです。

そういう彼から僕らが学んだのは、場を共有し何かを学ぶ授業に加えて、その次のサービスがあると気付いたわけです。つまり、出会った人同士が、何かの活動を継続していく、あるいは何かを始めていくきっかけにシブヤ大学がなれたら、と。共に活動をするプロセスを通じて、参加者それぞれの変化や、楽しみが生まれてくるんじゃないかというふうに思ったわけです。

新しい活動のスタートをサポートすること

「ゼミ」「サークル」というふうに呼んでいますが、 そういった、シブヤ大学の授業がきっかけになり、活動をしている人が手を挙げて、そこに活動を一緒にやりたいって言う仲間が集まる。こういったことを応援しようと思っています。今では、13くらいのゼミやサークルがあって、いろんな活動をやっています。事例を一つご紹介すると、マツダさんという方が主催する映画の音声解説ゼミという活動があります。映画の音声解説は、視覚障害者の方にも映画を楽しんでもらえるように音声解説を付けるというもので、映画館の中に特殊な電波を飛ばして、セリフだけじゃない、情景についての言葉のサポートを入れていく活動です。彼女は会社勤めの傍らボランティアでその活動をされていて、ぜひこれを多くの人に知ってもらいたいと思い、シブヤ大学で授業をやってみたいと応募されたんですね。(シブヤ大学の授業は一般からの企画公募もあります。)そして授業に取り上げて、この活動を一緒にやってくれる人を募ると、10名くらいの方が手を挙げた。それじゃあゼミにしようと、映画の音声解説ゼミという活動になりました。いま2年目を迎えましたが、最近では少しずつ映画の配給会社さんから仕事の依頼なども来ているそうです。マツダさんは、NPO法人格も取得中で、ゆくゆくはそういうお仕事としてやっていきたいという夢を持って活動されています。

授業の場に集まった人同士が、例えばマツダさんのように次のステップに行くなど、ひとつの活動がさらに促進するようサポートしていけるような仕組みや風土ができていけばいいなあと思っています。

その他の活動

市民活動のサポート

このような授業やゼミの他にもいくつかの活動があります。例えば「キャンパスマップ」。渋谷の街のいろんなお店に協力いただいて、シブヤ大学の学生が特典をもらえるお店を増やしています。これは、単に割引のきくお店を増やしたいということではなく、街のお店と参加者とのコミュニケーションのきっかけが作りたいんですね。ご存じの通り渋谷の街には多くの人がいますが、人と人とが仕事以外の形で出会う機会は多くありません。 出会うテーマは多様で良いと思うのですが、例えばシブヤ大学でもそういうきっかけが作れたらと思うのです。それができると、その街での暮らしはもっと楽しくなるんじゃないかと思っています。新しく移り住んだ街に少しずつ自分の馴染みの店ができていくようなイメージで、シブヤ大学の特典が受けられるお店をどんどん増やしています。そこに行くと気軽に挨拶ができたり、友だちができたり、居心地が良かったり、そういうふうになればいいなあって思っています。

また、授業の一環として、都市農村交流プログラムや、ファンドレイジングとも連動した文化祭や学園祭も行っています。

地域の小中学校への出張授業なんかもできたらと思っているのですが、例えば「総合学習」の時間も英語やコンピューター等、学習カリキュラムがタイトにあり、まだ実現には至っていません。現在までに、サポートできた点としては、中学生の職業体験の受け入れ先をシブヤ大学として幾つかご紹介したりしました。今後も地域の人々が地域の子どもたちの教育をサポートできる方法を模索したいと思っています。

シブヤ大学の経験をオープンに

最後に、このようなシブヤ大学のさまざまな取り組みや、組織、お金のことなどを、モデル化して、全国のいろんな地域にお伝えすることも大事な活動と考えています。背景としては、活動当初からたくさんの問い合わせをいただいたんです。行政の方や街づくりに携わる方から、うちでも同じようなことをやってみたい、どういうふうにやっているの?という質問が多く寄せられました。初めは個別にお答えしていましたが、一昨年から「シブヤ大学のつくり方学科」という授業形式にまとめたりしています。また、今年度は経済産業省のコミュニティビジネスの助成金を受け、シブヤ大学モデルの設立運営に関するマニュアル作成とハンズオン支援を行っています。現在、10地域でサポートを行っていますが、当面はこの10地域に注力しようと思っています。札幌市で来月から始まる札幌オオドオリ大学、東京にしがわ大学など、ネーミングも地元の人たちに考えてもらい、運営についてもシブヤ大学が行うのではなく、すべての地域が独自採算、別法人で行っています。

海外からの問い合わせもあり、これまでに21の都市から連絡がありました。先日はフランスの経営大学院の方が日本へのスタディツアーの際に話を聞かせてほしいと連絡があり、明治神宮さんに茶室をお借りして、シブヤ大学の活動についてお話をさせていただきました。彼らが着目するテーマは2つで、ひとつはオープンエデュケーション。資格などがなく、誰にでも学習の機会を提供している点が良いと。もうひとつは、コミュニティビルディング。海外の都市においても、コミュニティをいかにより良くしていくかは重要なテーマだそうです。いつか海外の都市にも姉妹校ができ、さまざまな交流ができたらと夢のように思っています。

シブヤ大学の組織運営

現在、シブヤ大学は、フルタイムスタッフ2名、パートタイムスタッフ約30名、ボランティアスタッフ約80名、合計約120名で運営しています。

シブヤ大学を運営するためのさまざまな役割、授業の企画、広報、授業運営、会計税務、あるいは資金調達(ファンドレイジング)に至るまで、各機能を組織の中に、正職員として抱えるのではなく、そのほとんどを外部の組織や個人と連携しながら行っています。形式的にはアウトソーシングですが、アウトソーシングという言葉ほど「外」というものではなく、一体となったチームとしてやっています。彼らは、普段はそれぞれに各分野の仕事をする専門家です。例えば、授業の企画だったら編集者だったり、ファンドレイズなら広告代理店の営業だったり。そういう人たちをネットワーク化して組織を形成していきます。例えば、シブヤ大学のデザインはカワイイですよねとか、企業さんとの連携が盛んですがどうやっているんですか、とか、授業タイトルのネーミングとかどうやっているんですか、といったご質問をいただきますが、その理由は全てここにあって、その道のプロがやっているからなんです。いかに、プロの人たちと一緒にやっていくか、それぞれがこの活動に気持ちよくやりがいをもって関わってもらえるかというところが、僕らが工夫をしているところです。

それから、おもに授業の運営などを行うボランティアスタッフが約80名います。彼らの関わり方は多様で、年1回くらいから、毎月あるいはそれ以上に活動に関わる人まで、いろんな人がいます。気をつけているのは、そういった多様な関わり方を良しとして、受け入れることです。やっぱり、日頃から従事しているコアスタッフになればなるほど忙しく大変になってきて、ボランティアスタッフに対して、少ない関わり方でもいいんだよという雰囲気が出せなくなってきます。「もっといてくれないと困る」とか、「あんまり来てないのに偉そうに意見を言っ て」とか、言いたくなってくる。でもそうじゃない。来てくれるだけで、いてくれるだけで嬉しいんだっていうことを言い続けています。だから、打ち上げに参加するだけでもオッケーです。写真は、授業後の全体ミーティングの風景です。誰がパートタイムで、フルタイムで、ボランティアなのか、全く分からないですよね。職業や年代もバラバラです。プロカメラマンの人がいたり、学生がいたり、あるいは長く地域に暮らすお母さんがいたりとか、バラバラなんです。バラバラの人が集まって、シブヤ大学の運営をやっています。そしてそれぞれがその関わり方にかかわらず、対等にいかに活動を良くしていくか話し合いをする。

ポイントとして気をつけているのは次の5つの点です。1つ目、「多様性」です。多様性を受け入れることが非常に重要だと思っています。年齢、性別もそうですし、あるいは組織に対する関わり方、頻度、責任の重さも、多様であっていいんだということを強調するようにしています。

次に「主体性」を大事にしています。組織が目的をもって動こうとすると、やらなければならないところを洗い出し、そこに最適な人を当てはめ、期限を決めて進めていくと思いますが、そういったやり方のなかにも、できる限り主体性を活かすようにしています。例えば、シブヤ大学でやってみたいなって思うことや、これから自分はこういう分野で成長していきたいっていうところを尊重しながら役割を決める。本人のやりたい役割に居場所を作ってあげる。すると、他人から言われずにどんどん自らの意思で活動を進めていくわけですね。もちろんそれを通じて成長していき、それがまたチームにとっていい結果になっていく。こういうことを意識しています。だから、誰かが何かをやりたいなって思ったら、その芽を見逃さないように気をつけ、その活動が形になるように周りの人間がサポートしていきます。

情報の共有はもちろん、議論の時でも、関わり方によって意見の軽重をつけない。年に1回来る人の意見であっても、フルタイムスタッフの意見と同じように扱う。「あんまり来てないくせに偉そうなこと言うなよ」なんてことは、一切ダメです。
ただし、何事もみんなで話し合って、みんなで決めていくってなると、議論が集約しません。すべて多数決で決めるということも、多分うまくいかないと思います。だから、基本的には各業務毎の責任者が判断する、そして最終的には僕が意思決定を行う。このルールを徹底しています。これが4つ目です。

最後は、個人の生活と組織の目標達成とのバ ランスです。組織の目標達成だけを考えると、関わっている個人ひとりひとりの生活よりも、組織からの要請ばかり強くなって、関わる人がどんどん疲弊してしまう。個人として、関わり方がキツイなあって思っていても、組織の目標なんだからっていうふうになってしまう。そうなってしまうと、運営が持続可能ではなくなる。だから、もちろん組織として目的、目標があり、それに一生懸命向かっていくんだけれども、そこに関わる個人個人の人生にとってもプラスになるような活動であってほしいと思いながら、個人の生活と組織の目標達成という両輪のバランスをとりながら活動ができればと気をつけています。

シブヤ大学のファンドレイジング

プロジェクトがあって、そこに携わる人がいます。プロジェクトを動かす時に、最終的に必要になるのがお金です。まずシブヤ大学の2006年度から2008年度までの3年間ですが、1400万円くらいから始まって、2400万円、4085万円、これが年間の事業予算です。内訳としては、大きく事業収入と、寄付会費収入の2つに分かれます。昨年は助成金収入もありました。年を経るごとに収入のあり方も多角化している感じです。そのなかでも、僕らが、まず大事だと思っているのが、寄付や会費による収入です。まずは、ファンドレイズについて、僕らが考えている大原則を先に少しお話します。

ファンドレイジング、つまり資金を集めるということですが、NPOは資金を提供してくれる相手に対し、直接サービスを提供する対価としてお金を受け取っているわけじゃないですよね。じゃあ、一体何に対してお金を受け取るのでしょうか。それは、シブヤ大学であれば、シブヤ大学が目指している地域の姿、つまり、ビジョンの実現に対して応援してもらうということです。応援をしてもらう方法の一つが、寄付をしたり、会員になるということです。他にもスタッフとして参加したりするなど、活動へのサポートの仕方はたくさんあるわけですが、その1つが寄付や会費による資金提供。なので、ファンドレイズという活動は、単に「お金を集めてくること」だけじゃなくて、活動を知ってもらい、そのビジョンに共感してもらい、参加してもらうというNPOの活動の基本となる部分だと考えています。

ファンドレイズに関し、いいなあって思っているのが、スペインのFCバルセロナというサッカーチームのあり方です。もちろん企業のスポンサーや広告収入等々あると思いますが、何より世界中の14万人のソシオとよばれるサポーターがチームを支えているんですね。ソシオはクラブの会長選挙だとかチーム方針などに対しても、一定の権限を持っているそうで、だからこそ、ユニフォームの胸には、一番のスポンサー企業の冠がつくべき所に、「ユニセフ」のロゴが入っている。バルセロナの市民のなかには、結婚して子供がおなかにできたときに、子供の分のサポーターになる人もいるそうで、なぜなら、50年以上チームのサポーターだとつけられるバッチを早く自分の子供につけさせたいからなんだそうです。それくらい、自分の街のサッカークラブを愛していて、週末に試合を見に行くだけじゃなく、そのクラブの活動を支えている。すごくいいなあと思います。だから、シブヤ大学もいつかは、親子3代にわたってシブヤ大学生とか、週末は孫と一緒にシブヤ大学のサークルに行くんだとか、そんなふうになりたいなあって。目には見えないおらが街の学校として地域の人たちシブヤ大学を支えていく、そんなふうになれたらいいなあって思っています。

だから、この寄付会費収入は活動のあるべき姿のイメージに近い重要な収入と考えています。しかし、収入の割合としてはまだあまり多くない。ここを増やしていくには、人々との信頼関係も必要だし、そのための実績や時間も不可欠です。今後、大事にしていきたいところです。そして、寄付や会費収入という土台に重ねて、企業との連携による収入などを積み上げていきたいと思っています。

NPOは、法人格ができて約10年、日本ではまだまだ黎明期だと思っています。特に、ビジネス界から学ぶこともまだまだ大きいですね。組織運営やファンドレイズ、広報、マネジメント、成果測定の手法などあらゆることです。また一方でNPOと企業との協働という分野もやはり未開発だと思っています。今後、企業や行政との連携による収入の獲得はNPOの収益源の一つとして確立されていくと思うので、シブヤ大学としても、その流れのなかで、良いチャレンジができたらいいなと思っています。

企業との連携のカタチ

シブヤ大学が企業との連携で何をやっているか。現在のところ、一番多いケースが授業への協賛です。先ほどの東急ハンズさんの例ように、企業に応援してもらって、授業を実施するパターンです。事例は全てシブヤ大学のホームページに出ていますので興味があれば見てみてください。

なかでも、非常にうまくいっているコラボレーションの事例は、アサヒビールさんと一緒に渋谷の地ビールを作ろうというプロジェクトです。きっかけは、アサヒビールが運営するホームページの取材を受けたことから始まりました。そのうち、会社としてシブヤ大学と一緒に何かできたら、と企画を考えて下さって、その結果、渋谷の地ビールを作ろうということになりました。企業メリットとしては、シブヤに来られる一般市民と一緒になってビールを作ることで、価値のあるマーケティングができるということです。また、その取り組みを通して、企業のPRにもなります。シブヤ大学にとっては、参加者の方にとって、自分たちが今飲みたいビールをプロが一生懸命形にしてくれるという、非常に稀有な体験ができる。双方のニーズがうまくかみ合ったと思います。しかし、この活動を通じて、企業担当者の方の情熱が連携には欠かせないということを実感しました。よく企業さんとの連携ってどうするんですか、どんなツールで、どんなふうにやられるんですかと聞かれますが、最終的には「人」だということを必ず言います。先程のファンドレイズの大原則と一緒です。担当者の方が、「あなたの活動に共感します」、「一緒に何かやれたらいいですね」と思ってくれることが最初の一歩。その次に、企業としても最低限の連携によるメリットがなければきびしいというところから、お互いに気持ちよくやるにはどうすればいいかを一緒に考えていく。そんなふうに進めることができれば、どこかに必ずお互いにとって良い落とし所があるはずだと思っています。

二番目は、法人会員としての寄付や会費ですね。現状、約30社にサポーターになってもらっています。

三番目、広告的な考え方で、トップページのバナーだったり、チラシに企業ロゴを載せたりしています。

四番目は、ものづくりの企業さんには、一緒にシブヤ大学のグッズを作ってもらったりしています。僕らで在庫を抱えたりといったリスクはなかなか負えないので、流通まで含めてやっていただき、売り上げに応じてその一部をシブヤ大学の活動に寄付をしてもらうという仕組みでやっています。

いろんな企業さんと出会い、お互いに話し合いながら連携の方法を模索していますが、シブヤ大学として最も大事にしているところは、「参加者第一」ということです。例えば、企業さんからスポンサードを受けて授業を開催する。クライアントっていう言葉がありますが、その授業をスポンサードしてくださる企業さんがいわゆるクライアントになってしまうと、その授業はスポンサー企業のための場になるわけです。例えば直接的な販促活動がその場でされたり、アンケートの回答を強制されたり、チラシやサンプルを持ち帰らされたり等はお断りしています。企業がクライアントで、参加者はそのPRをしたい対象ということになる。それでは授業ではなくなってしまいます。シブヤ大学のクライアントは参加者です。シブヤ大学の活動に参加してくださる生徒さんや先生が第一ということを徹底しています。協賛して下さる企業さんにもそこにはご理解をいただいて、それでもいいという企業さんとだけお付き合いをしています。また、授業内容のアイデア出しは一緒にやっても、最終的には授業内容への関与は遠慮してもらいます。お金を出しているのだからこうして欲しいと言われても、もしそれが参加者にとって良くないと判断したときにはやらないようにしています。

シブヤ大学のこれから

シブヤ大学のこれからですが、先程のFCバルセロナみたいな存在になっていきたい。地域の人たちにとって、自分たちが観客として参加し楽しむと同時に、その存在が愛され地域の人たちから活動を支えてもらえるような存在になっていきたいなあと思っています。渋谷の街に移り住み、区役所で手続きをして電話帳や地図なんかを渡されるなかに、シブヤ大学の入学案内が入っていたり。渋谷の街の人たちにとって、シブヤ大学が当たり前のサービス、誰もが知る仕組みになっていって、いつも街のどこかで開催されている授業やさまざまな活動に、子供からお年寄りまで、自由に参加している。そして、参加するだけでなく、活動に関わり支えていく。そして、参加者の力によって、またシブヤ大学というサービスが発展したり、街に根付いていく。そんなふうになっていけるといいなあと思っています。

現状も、これからも、きっと課題はたくさんあると思います。でも、大事なのは、トライ&エラーを繰り返すということ。そして、その過程を自分たちだけの経験としてしまっておくのではなく、失敗も成功もふくめて、多くの人と共有していくことが重要だと思っています。これからも、僕らがシブヤ大学を通じて学んでいるひとつひとつを多くの人と共有できればと思っています。どうもありがとうございました。

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