


前号では横浜で取り組んできたプロジェクトを紹介しましたが、FECはこの数年、中国人、韓国人と共に仕事をしてみることを特に意識し、東アジアの各都市でのアートプロジェクトにも積極的に取り組んできました。アーティストと共に場に関わり、経験を共有し、そのプロセスを楽しみ、そこから学習し、成長することを常に意識しながら、FECの活動を続けています。
東アジアの中でも、主に今の東アジアの現代美術シーンを牽引する北京、上海、香港、台北、ソウルの5都市に足を運ぶ機会が多いのですが、今回はそれらの中から特に印象深かったプロジェクトをピックアップしてご紹介します。
私が以前に勤務していた東京画廊が2002年に他に先駆けて北京大山子芸術区に開設したスペース、BTAPでは、私が東京画廊に勤めている間も、そして退職後も、展覧会を企画する機会をいただきました。
東京画廊勤務中に担当させていただいた展覧会の中でも特に印象深い展覧会は、現代日本文化を記述する際に用いられる社会学用語「Techno Orientalism」と 「JAPANIMATION!」をタイトルとした展覧会です。毎年開催されていた北京大山子国際芸術祭に合わせ、2年続けて展覧会を担当させていただきましたが、特に2年目の2006年に開催した「JAPANIMATION!」展にてコラボレーションをすることができた中国人作家のツァオ・フェイ氏とのプロジェクトは力が入りました。
ツァオ・フェイ氏と言えば、先日まで東京銀座の資生堂ギャラリーで個展を開催し、セカンドライフ上で作品を創り上げるという非常に前衛的な活動を続ける作家ですが、私たちがコラボレーションを行った際は、コスプレをテーマとした作品を制作していたので、それをテーマにしたパフォーマンスを考えてくれないか、と作家に相談を持ちかけてみました。

それに対する作家からの回答は我々の想像を遥かに超えるエキサイティングなものでした。展覧会会場全体を一つの劇場に見立て、その中で繰り広げられたパフォーマンスには多くの人が詰めかけ、展覧会は大成功。そして、パフォーマンス後には本プロジェクトをテーマとした新作の写真作品も制作することができました。写真はそのシリーズ作品の一つですが、一番前でスコップを持っているコスプレイヤー、実は私です。
そして画廊を辞めた後も、展覧会を担当する機会をいただき、BTAPで空間の内装工事を組み合わせた展覧会を開催したこともある、中国と日本で活躍する建築ユニットMADの東京代表、早野洋介氏をゲストに迎えた中国/日本の建築交流展「Asian Body」展を2007年夏に開催しました。日本からISSHO建築設計事務所(宮内智久氏+ベラ・ジュン氏)、中国からTCAアーキテクト(リップ・チョイ氏+アニー・チュン氏)に参加いただき、身体によって喚起される空間装置を展示、「Asian Body」を基軸にこの先のアジアの空間を表現しました。
また、本展に続き、国際交流基金主催の日本現代美術展「美麗新世界」が 、BTAP を含む大山子芸術区内の3カ所のスペースで開催されました。私はその現場での展覧会の空間設営、コーディネーション業務を上述の早野氏と共に担当しましたが、この機会は今まで中国で現代美術の仕事をしてきた私にとって、今の日本の現代美術に触れ、理解するとても良い機会となりました。前号で紹介した津村耕佑氏や金氏徹平氏だけでなく、西京人、exonemo、田中功起氏などとのプロジェクトにも繋がっています。
森ビルが手がけた上海の最高層ビル、上海環球金融中心の上層階にオープンしたパークハイアットホテルのバーラウンジに現代美術の作品を恒久設置するプロジェクトで、FECは陶器を用いた作品を制作する中国人作家の劉建華氏のプロジェクトを担当しました。
作家の代表作の一つである、様々な日常品の形をした陶器を天井から吊るすインスタレーション型の作品《日常易碎》が最終的に設置される作品として決まったのですが、最終的な設置に至る過程では多くの困難に直面しました。
まずは材料の問題。彼の作品の素材は陶器なのですが、高層階の天井に800個の作品を吊るすことが、重量的な観点からも、そして耐震面、安全面の観点からも難しいということになり、代替素材としてFRP(ファイバーグラス)を使用することになりました。しかし、作家は陶器以外の材料を使用した経験がなかったこともあり、陶器の型を受け取り、FRPの制作を担当することになりました。
そして、完成したFRP作品をいよいよ設置することになりましたが、ビル全体の施行スケジュールが非常にタイトで、他の内装工事と平行して作品を設置せざるを得なくなる、重量の観点から作品の量を再調整する、作家の意向と現実可能性とをうまく調整する、など、現場ですぐに判断が迫られる状況が多々ありました。いろいろな苦労がありましたが、最終的には無事に設置が完了し、とてもいい作品に仕上がり、作家も満足そう、私としても非常にやりがいのあるプロジェクトとなりました。上海にお越しの際は、是非足を運んでみてください。
韓国を代表するインディペンデントキューレーターのキムソンジョン氏が運営する非営利のアート団体、samuso(サムソ)が2007年より毎年開催しているプラットフォームのチームに参加、2008年の秋、約1ヶ月ほどソウルに滞在し、日本人作家の作品の制作と展示の補助を担当しました。
展覧会の準備では主に、小沢剛氏(日本)、ギムホンソク氏(韓国)、チェンシャオション氏(中国)からなるユニット、西京人の新作の制作のサポートを私が担当することになりました。西京人の新作は、韓国のパペットショーのスタイルに則って、まるで西遊記のように西京への旅を作り上げる、というもの。シナリオから、キャラクターのスケッチ、展示の演出まで全て西京人の3名が作り上げ、展覧会のオープニングには実際にソウルを代表するギャラリー、クッチェギャラリーにてパペットショーを上演しました。
顔は似ていても話す言葉が違う東アジア人作家が、母国語でない英語を使って協同で作品を制作することは、特にコミュニケーションの面でいろいろと問題が出てきますが、そのプロセス自体を楽しみながらも真剣に作品を制作する姿勢が非常に印象的で、現在の東アジアの縮図的なものすら感じました。そういったコラボレーションによる制作のプロセスに関われたことは、東アジアでプロジェクトを続ける上で非常に有意義で、以降の仕事にも役立っています。
また、このプラットフォームプロジェクトのソウルでの本展の開催に先立ち、横浜トリエンナーレに時期を合わせたプレイベント、「プラットフォーム横浜セミナー」を、東京を拠点に活動するNPO団体のAITと開催しました。横浜とソウルとが繋がるように工夫された本企画によってプラットフォーム展の存在が知られることとなり、多くの日本のアート関係者がソウルまで来てくださいました。
「アートフェアの中で、メディアアートの展覧会を企画しくれませんか?」2009年に入ってすぐの頃、このような連絡が入りました。会場はアート台北。台湾を代表する現代美術のアートフェアです。
日本のメディアアートは、東アジアの中でも特に秀でていて、そのクオリティの高い作品を、台湾人作家と共に台北で紹介してもらいたい、というものでした。限られた予算の中で面白い展覧会を、ということで、日本と台湾だけでなく、中国や韓国も含めた東アジアの若い世代の映像、写真、メディアアートを集めた、現代美術とメディアアートとを横断するような展覧会を検討し始めました。
ちょうど2009年は、横浜にある東京藝術大学大学院映像研究科に所属するオーストリア人のメディアアート研究員、ゲオルグ・ルッセガー氏とともにCoded Culturesというイベントを企画していたこともあり、また、大学院時代にメディアサイエンスを専攻していた経験と今までの現代美術での経験を組み合わせ、展覧会の構想を練りました。

そして、「日常化し、多様化し続けるメディア技術を利用し、日常の様々な要素を巧みに組み合わせながら、時に軽やかに越境し、見慣れた風景に事変を起こす東アジアの新世代アーティスト」を展覧会のコンセプトとし、日本からは「美麗新世界」展にも参加した、西京人、exonemo、田中功起氏に、まだ日本以外の東アジアでの作品発表の実績のない若手作家のSHIMURABROS.、Antenna、田口行弘氏を加えた6組、台湾からも6組、中国と韓国からはそれぞれ3名の作家に作品を出展していただき、「日常事變:LIVE BY PLAY」展の実現に至りました。
展示作品の全てには、アジア特有の「プレイフルネス」という感覚が潜み、多くの台湾の方に、作品を通じて東アジアの新しいリアリティを目撃し、体験していただきました。
また、展覧会に合わせて開催されたトークでは、「The contemporary media art scene in Japan and the world」と題し、SHIMURABROS.と共にメディアアートの過去から今までの流れ、そして、作家の制作プロセスについて話をする機会をいただき、今の日本で展開する新しいメディアアートシーンを紹介しました。
「日常事變:LIVE BY PLAY」展は台北のアートフェアでも好評を博し、台湾の多くのメディアにも取り上げられ、それが次の台湾での仕事にも繋がっています。具体的には、2010年の1月には台北中心部にあるギャラリー、就在藝術空間にて「手感的妙:Contemporary airy crafts from Japan to Taiwan」を開催する予定です。開催中に台北にいらっしゃる機会がある方は是非足をお運びください。

「手感的妙: Contemporary airy crafts from Japan to Taiwan」
<Part 1>
会期:2010年1月9日~2月28日
参加作家:飯田竜太、 金氏徹平、SHIMURABROS.
<Part 2>
会期:2010年3月13日~4月25日
参加作家:泉啓司、岩崎貴宏、劉文瑄、林昆穎
開廊時間:13:00~18:00 月曜休
会場:就在藝術空間
10658 台北市大安区信義路三段147巷45弄2號一楼
電話=02-2707-6942
協力:ARATANIURANO、SHUGOARTS、Taka Ishii Gallery、TSCA
後援:財団法人交流協会、台湾市文化局
こういった東アジア各都市で担当してきたさまざまなプロジェクトを通じて感じることは、東アジアのアートシーンの発展はまだ始まったばかりだということです。ある程度成熟した日本と違い、問題点もまだまだたくさんありますが、日本以上に変化に対して前向きでオープンであり、かつ吸収や改善の速度も速く、日本に追いつくどころか、すぐに追い抜かしてしまうと強く感じます。しかし、今までの知識や見聞、公平さや責任感、品質、管理、美に対する意識など、日本人が日本人らしさを活かして東アジアでできることはまだまだたくさんあるということも同時に強く感じています。
FECは、このような東アジアのダイナミズムに巻き込まれながら、フットワーク軽く、そしてアーティストと共に楽しみながら、かつ意義のあるプロジェクトを続けてきましたが、この姿勢は今後も変えることなく、継続していきたいと考えています。
次号では、現在、横浜市・北京市アーティスト・イン・レジデンスプロジェクトに参加し、横浜にて滞在制作を行っている中国人現代美術家の孫遜のプロジェクトの様子をお伝えします。なお、プロジェクトの最後にはYCCで以下のような展覧会を開催しますので是非お越し下さい。
「孫遜:主義之外」
会期:2010年1月23日(土)~ 1月31日(日)
会場:ヨコハマ・クリエイティブシティ・センター
〒231-8315 横浜市中区本町6-50-1
電話=045-221-0325
開館時間:11:00~19:00 会期中無休
オープニングレセプション:
2010年1月22日(金) 18:00~ 20:00
トークイベント:
2010年1月30日(土) 18:00~20:00
主催:FEC、ヨコハマ・クリエイティブシティ・センター(YCC)
共催:アーツコミッション・ヨコハマ(横浜市開港150周年・創造都市事業本部、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
協力:横浜美術館、香格納画廊、COEDO

FECは、21世紀を迎えた東アジアで活躍するアーティストのためのクリエイティブ・プラットフォーム。プロジェクト&プロダクション志向を活動の柱とし、東アジア各国の現代美術の第一線で活躍される方の知見をヒヤリングしながら、アーティストと共に東アジアのアートシーンを一緒に作り上げていきます。横浜・ZAIMの1室を活動の拠点とし、馬車道近くのレジデンス施設(馬車道スタジオ)、北京と東京のリエゾンオフィス、東アジア各国のサポーターとともにプラットフォームを支えています。

金島隆弘[かねしま たかひろ](アートプロデューサー)
1977年、東京都生まれ。FEC代表兼ART iTプロデューサー(東アジア担当)。2002年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了、ノキア、東芝、東京画廊を経て、2007年よりFEC(ファーイースト・コンテンポラリーズ)の設立準備、2008年4月よりZAIMにて活動を開始。横浜、北京、台北を中心とした東アジアの現代美術のリサーチプロジェクト、作家の作品制作支援、交流事業等を手がける。