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【ミュージック・イン・ザ・ダーク】対談  徳永二男( ヴァイオリン)×川畠成道(ヴァイオリン)

2017年11月21日(火) / インタビュー

「ミュージック・イン・ザ・ダーク」と題するコンサートが昨年大きな話題とともに開催されました。視覚障害のある演奏家と晴眼の演奏家でオーケストラを作り、全員が暗譜で演奏し、プログラムの一部を完全な暗闇の空間で行うコンサート。その特別なコンサートが再び月に横浜みなとみらいホール小ホールで開かれます。ヴァイオリニストの徳永二男さんと川畠成道さんがこのコンサートの体験を語ります。

 [文・構成:猪上杉子|撮影:平館平]


*こちらの記事は、20181-3月コンサートカレンダーに掲載の対談記事のロングVer.です。

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ミュージック・イン・ザ・ダークとは

 

――――全員が暗譜で演奏する、そのうえでアンサンブルするのはご苦労があったのではないですか?

 

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徳永二男:川畠さんとの初共演は素晴らしい機会でした。しかし「ミュージック・イン・ザ・ダーク」出演のための条件の、オーケストラ全員が暗譜で演奏しなければならないというのは実に大変なことでした。私はソリストとしての経験から暗譜にはある程度は慣れていましたが、それでも暗譜には恐怖がつきまとうもの。オーケストラメンバーに至っては、ファーストヴァイオリンはメロディが多いのでまだ覚えやすいのですが、セカンドヴァイオリン、ヴィオラ、チェロといった内声を担当する楽器の、それも晴眼の演奏家にとっては、暗譜はとてもきつかったと思います。それでも精鋭の演奏家たちでしたから、素晴らしいアンサンブルになりました。

 川畠成道:私は元々、楽譜を見られない、楽譜を読むだけの視力がない状態でヴァイオリンと出会っているので、暗譜して弾くのは当たり前のことなんです。それなら暗譜の不安がないかと言うとそんなことはなくて、やはり常に不安を持ちながらの演奏です。普段から楽譜を見ない自分にとっても大変な暗譜ですから、アンサンブルの方はどれだけ苦労されたのかは想像を超えるところです。

――――完全な暗闇での演奏というのはどのような体験でしたか?

徳永:暗闇という体験も、単に楽譜を見ることができないということだけじゃなかったですね。まず、現代の生活の中で本当の暗闇というのは誰も経験したことがない。家の中でどんなに光を遮断しようとしてもどこからか光は入ってくるものなのです。リハーサルで完全な暗闇を体験したときに、ただ立っているだけでも体幹が揺れるような、ぐらぐらするような経験をして、体幹を保持して演奏できるまでに時間がかかりました。

徳永:暗闇という体験も、単に楽譜を見ることができないということだけじゃなかったですね。まず、現代の生活の中で本当の暗闇というのは誰も経験したことがない。家の中でどんなに光を遮断しようとしてもどこからか光は入ってくるものなのです。リハーサルで完全な暗闇を体験したときに、ただ立っているだけでも体幹が揺れるような、ぐらぐらするような経験をして、体幹を保持して演奏できるまでに時間がかかりました。


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川畠:私も、暗闇を作ろうとして家の中で電気を消しても、何かの明かりを感じたりする。それは安心感につながっています。完全な暗闇になると、自分が取り残されたような不安が出てくるんですよね。それをどう克服するかという作業も必要でした。楽譜は元々見ることはないんですが、光は感じますので、楽器がここにあってこうやって弓が弦のどこに当たっているというのはなんとなく感じながら演奏しているんです。でもそれが完全な暗闇になるとまったく感じられない。手の感覚、耳の感覚、あるいは皮膚の感覚など普段使っている感覚は普段以上に、そして普段使っていない感覚も呼び覚ましながら演奏しなければなりませんでした。

徳永:普段だったら、弓が弦のこのあたりをキャッチしてこう引っぱるという感覚は無意識のうちに得ているのですが、最初はその感覚さえも疑わしく感じるくらいでした。65年もヴァイオリンを弾いている経験のおかげで、なんとか乗り越えたという感じでした。オーケストラとのアンサンブルといっても、普段はお互いの弓の動き、顔の表情や頭の動きを見て、次が優しい音なのか激しい音なのかを計り合っているわけです。ところがその情報がまったくない。どうするかというと呼吸ですよ。コンサートマスターを務めてくれた三浦章宏さんが、ベテランの呼吸で全員に次の音楽の方向を感じさせてくれたんです。

川畠:アンサンブルと音楽上でのコミュニケーションを取る上では、普段は使っていないセンサーやアンテナをより働かせるという部分はありました。


「音と音の間」を聴く


――――完全な暗闇で何が起きるかというのは想像できたことと、初めて分かったことというのがあったわけですね。演奏家同士の距離感というのはまわりが見える時よりも広く感じましたか?

徳永:近寄るにしろ、離れるにしろ、距離感をとるのは難しいことでしたね。だからより演奏に集中しなくてはならなかった。バッハの「無伴奏パルティータ第2番シャコンヌ」の演奏では、メロディと伴奏をひとりで弾くような曲なのですけれど、だんだん普段とは違うエネルギーが湧いてくるような、より音楽が濃密になっていったように思いました。

川畠:より集中力も増しましたし、普段使っていないいろんなセンサーを働かせて演奏を作っていっているという感覚がありました。通常の明かりから徐々に暗くなっていく、また完全な暗闇から徐々に照明が感じられるというふうに、暗闇から明るい場所までを体験したのですが、明るい方に行く分には安心感が増すのですが、暗い方に行くのは不安感と同時に弾いている感覚、音の聞こえる感覚が変わってくるんですよ。光のあるなしで自分の中で聞こえ方、感じ方が変わるというユニークな経験でした。

――――このコンサートでの体験は音楽家としてはどんな意味を持ちましたか?

 

徳永:非常によい経験になりました。演奏会に向けての準備が、より確実にできるようになりました。楽譜を見て覚えたものを、よりしっかりと頭の中に響かせる、その響きがより濃厚に鳴るようになりました。頭の中できちっとその曲の音楽性をデザインして自分の身体と道具を使って表現すること、それが演奏です。それをより確実に、強固な結びつきで行うための準備のしかたを学べました。これからの演奏会でもこの体験は大きく活きてくると思います。

また一方で、演奏家が一緒になって目的のところに向かって心が動いていくというのは、たとえ暗闇で何も見えなくても、音楽の流れをしっかり作ることができるんだと分かりましたね。

川畠:完全な暗闇に自分が置かれると、それまで聞こえていなかった音が、あるいは音と音の「間の音」とでも言うものが聞こえてきました。ちょっとしたポジションを移動する弓と弦がこすれる音などが聞こえたり。こういう音は普段は聞こえていないのだということを自覚する瞬間がありました。アンサンブルや徳永さんとの呼吸も敏感に感じました。単独でソロを弾いたときも「間の音」を感じながら弾く体験でした。普段は聞こえてない音がある。聞こえてないというか聞いていない音があるんだということを知りました。手の感覚も、暗闇で弾いてる時はそれ以前よりも研ぎすまされているなと感じたんです。確実にそれまでと違う自分がそこにはあったなと思える、貴重な体験でした。


――――聴衆の方の体験はいかがだったのでしょうか?

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徳永:家族が聴きにきまして、「いつもとまったく違う初めての不思議な体験をした」と話してくれました。聴いてくださる方も緊張しながら集中して聴いてくださったのかもしれません。

川畠:普段のコンサートでは明るい照明が当たっているのに、完全な暗闇で音だけになった瞬間に、いったいどう感じられたのか。きっとより感覚を呼び覚まして聴かれたのではないでしょうか。

徳永:拍手も全然違いましたよ。真っ暗な客席から拍手が湧き上がってきて包み込まれるような感じでした。演奏家と聴衆とのコミュニケーションがより強固なものになったと思います。演奏家がすべての感覚を研ぎすました演奏を聴かせ、聴衆も感覚を鋭くして聴いてくださる、そんな演奏会でしたね。

川畠:体験してみなければわからないでしょうね。


より深い音楽を発見!

――――今回また同じコンセプトの演奏会を、今度は横浜みなとみらいホールの小ホールを舞台に開催します。

 

徳永:あのホールは素晴らしいですよね。ホールトーンによって音楽は大いに変わります。我々にとってはホールも楽器なんです。ホールによって可能性は変わってきます。新しい聴衆の方にあの暗闇での音楽体験をしていただけるのはとても素晴らしいことですね。

川畠:前回は徳永さんと素晴らしい体験ができましたが、今回はチェロに古川展生さんを迎えてご一緒に音楽づくりをします。前回の経験を生かしながら、新たな発見がきっとあるでしょう。

徳永:古川君には暗闇で練習するようにアドバイスをしておきますよ。チェロはヴァイオリンよりも身体から距離のある楽器ですからね。最初は感覚をつかむのに苦労するかもしれませんよ。

川畠:前回はもしかすると感じる余裕がなかった感覚を、より深く感じてみたいと、楽しみにしています。完全に暗い中で自分の音楽がどう響くか、それを自分がどう感じられるか、そして自分が発信したものをどう感じていただけるか、とても楽しみです。暗闇への不安を克服するためにしっかりと音楽づくりをしますし、暗闇であろうと明るいところであろうと、自分が表現したい、目指す音楽には変わりありません。聴衆の方にも、普段は聞こえないものが聞こえたり、感じていただけるような、きっとそれまでになかったより深いものを発見していただけるのではないかと思います。

徳永:演奏会から帰って家で飲むワインの味もまったく違ったりしてね。別の感覚を得る体験になるかもしれませんよ。

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【古川展生さんからのメッセージ】

暗闇の中で演奏するのは私にとって初めての経験になりますが、視覚障がいのある方を含め、「見えない」という状況をプラスに捉え、皆が同じ状況下で集中して音楽を聴き、楽しんで頂くというコンサートは大変意義のある試みだと思いますし、今回出演させて頂けることを光栄に思います。お客さまの感性に訴えかけられるように精一杯演奏したいと思います。

 

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