情報誌 毎月22日発行

3月号 / 2010

:表紙の人 一瀬皓コさん

10.02.15


一瀬 皓コ さん

アーティスト 一瀬皓コさん
Hiroco ICHINOSE

プロフィール

みずがめ座。山梨出身。東京工芸大学芸術学部アニメーション学科第一期生。古川タク研究室でアニメーションを学ぶ。同大学大学院芸術学研究科メディアアート専攻アニメーション領域を修了した後、上甲トモヨシと初の展示「2人展」を開催。現在は大学で非常勤講師などを務めつつ、作家として活動を目指す。代表作品「かなしい朝ごはん」「ウシニチ」「ハピー」等。とりが好き。
一瀬皓コさんホームページ

山村浩二の「私が推薦しました!」

'20年代産業としてアメリカで花開いた「カートゥーン」は、アニメーション史の本流にある。一瀬作品は、日本では比較的志す人が少ないそのカートゥーンの文脈に属し、ある意味伝統的なアニメーションの王道に新しい感性を注いでいる。平面ならではの画面構成や発想、動きのタイミングのセンスが光る。ギャグだけではない微妙なニュアンスの感情表現やテーマの選び方、語りのユニークさが独自性であり、魅力となっている。
山村浩二さんWEBサイト:「YamamuraAnimation」

一瀬皓コさん《かなしい朝ごはん》

《かなしい朝ごはん》2006年、2分28秒、アニメーション


一瀬皓コさん《ウシニチ》

《ウシニチ》2007年、9分9秒、アニメーション


一瀬皓コさん《ハピー》

《ハピー》2008年、4分14秒、アニメーション


※ 「ヨコハマ・アートナビ」では、東京藝術大学大学院映像研究科の協力により、若手アニメーション作家をご紹介しています。毎月、登場する作家は、『頭山』や『カフカ田舎医者』で世界最高峰のアニメーション映画祭のグランプリを多数受賞した、山村浩二さんによるセレクション。2009年5月より、作家のインタビューとともに動画を配信しています。(~2010年4月)

やわらかなタッチに、愛らしいキャラクター。かわいくておもしろい雰囲気に呑まれながらも、どこか物悲しさを感じてしまう一瀬さんの作品。「作品の中で繰り広げられる喜怒哀楽を自分と照らし合わせて見てくれたら」と言う一瀬さんに、お話を伺いました。

情報誌「ヨコハマ・アートナビ」平成22年3月号表紙掲載作品
《かなしい朝ごはん》2006年、2分28秒、アニメーション

「悲しい」が「面白い」

「かなしい朝ごはん」についてお聞きしたいと思います。どうして昼でもなく夜でもなく、「朝ごはん」にしたのですか?
朝って、一番楽しいはずなのに、泣きながら朝ごはんを食べる、一日のはじまりが悲しいっていうのが面白いなぁって思って。
「面白い」?
悲しいことや、楽しいことを逆で表現したいというのがいつもありまして、「面白い」っていうのを「面白くないこと」で表現する、「悲しい」っていうのを「楽しい」で表現するほうが面白いというか。何ていうんでしょう...。
逆のシチュエーションで表現することによって、表現したい感情が、より際立つということですか?
そうですね。悲しいことを悲しいもので表現するのが恥ずかしいんです。例えば、かわいいから赤やピンクを使ったり、怖いから鬼を使ったりっていうのは、あんまり私に向いていないっていうか、恥ずかしくて...。できる人はきちんとできるし、そうやっているんですけど。私は、なかなかできないので。逆の表現をすることによって、かえって感情が際立つし、そこに新しい発見があったり、また違うことができるんじゃないかなって。だから「朝ごはん」もそうです。楽しいはずの朝に泣いちゃう悲しさ。もっと暗い雨の時に泣いちゃう方がきっと辛いんだろうけど、そうじゃない方が面白いかなと。
どう面白いと思ったんですか?
犬が泣きながら朝ごはんを食べる。もっとかわいそうにしてやれ、こいつは本当にかわいそうな犬だっていうのをたたきつけたくて...。そしたら面白いなぁと思って。もともと最初にイメージがあって、泣いている犬を描いて、このキャラクターは悲しい目にあったら、きっと面白いぞって思ったんですね。ここから物語をつくっていくんですけど、そしたら、この子の飼っていた鳥も親もなくしてしまおうってなって、今はそんなひどい話はつくらないですけどね。
どうして、ハッピーな方向ではなく、そのひどい話のほうに広がっていったんでしょうね?
悲しいものを悲しく表現したものを見ても、面白くないと思うので、悲しいことを面白い動きで表現しようと思ったんです。悲しいことを、かわいらしい笑っちゃうような動きでやったときに、新しい発見があるんじゃないかなって...。けっこう笑ってくれるんですよね、悲しいところとかよりも。それを笑う人が、でもそれは、おもしろいのか悲しいのか、どちらでもないよっていう感情をつくりたかったんですよね。だから、タイトルもひら仮名にして「かなしい朝ごはん」って。
どちらでもないよ...っていうと...?
そうですね。悲しいし面白いし。紙一重だよってところ。人は、色んな感情を持っているよ...って。そんなことじゃないかな。難しくないんですよ。
見てくれた人が笑っちゃいながらも、違う感情も感じた...っていうのもあるといいな、と?
はい、そうですね。やっぱり見てもらうことには、そういうことに意味があるなと思って。
どうして「犬」を?たまたま描いたイラストが犬だったからですか?
そうです。何か描いて、それが丁度、犬で泣いていて面白いから。だいたいそうですよ。絵を描いて、全部動いてるつもりで描いているので...。

絵を描くのが、好きで好きで...。 

絵を描くことに興味を持ち始めたのは、いつごろですか?
ちっちゃい頃から絵を描くのが好きだったので、幼稚園、小学校、中学校と...絵を描いていました。たまたま私は、ほかに得意なものが見出せずにいたんですね。他のみんなは、小中学校で描くことをやめてっちゃうんですけど、私は線を引くのが面白くって、そのまま続けているだけで。
じゃあ特に「水彩」とか「油彩」とかにこだわらず?
そうですね。描きますけど、集中力が全くないので...。
最初からアニメーション学科に行こうと決めてたんですか?
私は、東京工芸大学のアニメーション学科第1期生なんです。もともとは3Dをやりたくて、違う学校を受けたら落っこっちゃって。でも、その年のうちにどうしても、うかりたい!って思っていたんです。それで、1週間後にアニメーション学科の試験を受けて、たまたまうかって。それで入ってみたら、アニメーションってすごくいっぱいあって面白い!と。それで3Dはやらずに...。
3Dとは意外でしたねー。今は手描き?
今はもっぱら手描きですね。
手描き以外もやってみたくなりますか?
今は、私にあんまり向上心がないので...。でも、できたら多分やると思います。アニメーションに限らず、やりたいことがいっぱいあって。
例えばどんなことを?
例えば、ちゃんと絵を描いたりとか...。最近、壁を使わせてもらえることが多いんです。去年の9月に銀座のリクルートG8っていうギャラリーで、デジスタの仲間たち13人で「13フレームズ」っていうのをやったんですけど、そこでも、壁に描かせてもらって。やっぱり大きい絵は面白いですね。
大きいのが面白いっていうのは?
からだを動かせるし、本当にやりたいのは、ボディーに色をつけて転げまわったり...。みんな、そういう欲があるじゃないですか?大きい絵って圧倒されるし、色が大きいと楽しいんですよね。きちんとした絵じゃなくて色がのっているだけでも。そういうのがやりたいな。
その場で描いたりもするんですか?
そうです。ライブペインティングとまではいかないですけど、アニメフェアでブースをもらってやったときも、大きい壁を利用してずっと描かせてもらったんです。ごちゃごちゃしたものを。今年の3月の展覧会のときも、壁に布をひいて、1週間でごちゃごちゃ描いていたのもあるんですけど。絵というか、線と色ですよね。ちゃんと描けないんですよ。だから、それをごちゃごちゃ描いているのが面白くって。
好きなだけ絵を描いていていいっていわれたら、ずっと描いてますか?
もう、幸せですね。でも、そんなこといっても、ただの趣味みたいな感じで。作品にならないんですよ。他にも大きい絵が描けたらいいなと思っています。それから、仮装大賞に出たいなぁって。
欽ちゃんの仮装大賞?ひとりで?
大勢で長い時間で「おぉおおおお」というものよりも、ひとりで出て、すっきり、サッというのをやりたいんですよ。でネタを1年くらい考えてます。多分近々出るはずです。ちゃんと予選を通らないとダメですけどね。
それは、面白いことをつまんないことでやるとか?
それは、きっちり面白いことをします。もう、あの仮装大賞的な。カメラが寄って、ぜんぜん見えないところで面白いことをしてるみたいな。観客に見えない系の...とかなんとか言って。
楽しみです。出るときは教えてくださいね。
はい、教えます。

動かしたほうがかわいい

アニメーションをつくろうと思ったのは、大学に入ってからなんですか?
そうでもないんですよ。うちに家庭用のカメラがあって、コマ撮り機能とかあるじゃないですか。それで、家にもパソコンがあったので、置き換えのアニメーションとかつくってたんですよ。中学生の頃には、簡単なワンループのアニメーションをつくったり。でも、それをアニメーションだって知らなかったんです。大学に入って、これがアニメーションなんだってわかったんです。
どうして、そういうことに興味を持ったんですか?
パソコンを持っていたので、お絵かきソフトで色々できるし、アニメーションも作れるぞ!って。アニメーションを、というか「動くぞー」って思って。自分の絵が動くっていうのは、面白いですよね。
それは、中学の頃ですか?
でも、基礎とかはないんです。ちゃんとやったのは大学に入ってからです。
そのころも自分の絵を動かしていたんですか?
はい。そうです。友達に送るメールのすみに小さいアニメーションをつけたりして。全然面白くないんですよ。全然ダメなやつなんです。もう、昔の話ですけど。アニメーションは、イラストで終わるんじゃなくて、動くことまでが一連の流れのようになるのが面白いなと思うんです。私は止まってる絵よりも、動いてるような絵を描いているほうが得意で、アニメーション学科に入った当時も、動かすことは全然できないって思っていたんです。動いたような絵は描けるけど、実際に動いている絵はぜんぜん違うし、得意じゃないなと思っていたんです。だけど、キャラクターは動かしたほうがかわいいってことに気が付いたんです。例えば、顔を洗うにしても、色んなしぐさができる。かわいくないキャラクターでも顔を洗うしぐさがかわいければ、かわいくなる...と思って。そういうふうに気が付いて、動かそう!動かしたほうが面白いって。
動かすと、しぐさが増えるっていうのは、ありますね。
ありますね。絵コンテも、きちんと描いたあとに、しぐさが増えちゃって、こう動いたほうがいい。こう動いたほうがいいって。絵コンテどおりにいかなくなりますよね。
かわいいしぐさが思い浮かぶんですね。でも、しぐさって、わずかな動きのほんのちょっとした動きですよね。重要な要素なんですね。
この子がひきたつ...なんて偉そうなことを言っちゃって。でも、みんなそうだと思います。私だけじゃないんです。3Dの作品などはすごく顕著なものだと思っていて、トイストーリーが出たときには「かわいくないな、これぜったい見に行かない」って思ったら、動くとかわいいじゃないって。あんなにかわいくないのに、動くとかわいい。じゃあ、私もきっと...」で、そういうのが自然にわかってきて。ちょっとした動きとか、手の返し方とかも変えることで、かわいかったり、かわいくなかったり。その逆もありますもん。こんな動きするんじゃかわいくないって。スチールとか見て、面白そうって思っても、動くのを見てダメだとか...。ダメというか、がっかりしちゃうっていうのがあって。
ご自身でつくってて、こういうんじゃない、こういう動きが欲しい!と思うことはありますか?
そうでしょうけど、私なんかは、こうならなかったけど、こうなったからいいか、って。これは想像していたのと違うけど、面白いんじゃないかなって...。だからダメなんですよ。
例えば、犬を飼っている人だったら、犬のしぐさから想像してみたりするんでしょうけど、その基となるものが、あるんですか?
よく言われるのが、私の動きが自分のアニメーションにそっくりって。どのアニメーションも、顔がその作者に似てるし、それを感じるんですけど、それって、面白いですよね。だから「それ、一瀬さんに似ている」って言われたり。やっぱり自分が出ちゃうんですね。昔、美術部だった頃に、みんなで同じ石膏を描いて、描いた絵を並べてみたら、みんなの顔に似ていて(笑)。誰が描いたかすぐわかっちゃう。先生が言うには「きれいな石膏を描いてれば、おめえらも美しくなる。きれいな石膏を描きなさい」って。でもそのデッサンもしなくなり。受験にデッサンのない東京工芸大学がちょうど良くって。フリップブック(※いわゆるパラパラマンガ)を描いてうかりました。だから丁度良かったんです。恵まれているんです。

人の一生って、なんて面白いんだろう

描いているところから、あ、今度はこの作品にしようかなって浮かんでくるんですか?それとも、ある作品をつくろうと意気込んでから、1から考え始めるんですか?
私が自主的につくったものがまだなくて、課題だったり、締切りがあるものだったりするから、この日までの期限だから、こういうものをつくるしかない。だからこういう話にしよう、だからこういうふうにつくれる...という感じに、うまく作ってきたから。でも、絵を描いている中で、こういうのをやりたいと思うのは、すごくあります。絵から始まったり...。面白いことや面白いものがいっぱいあって、それをうまく表現できたらいいなって。
どんな視点で「面白い」と思うんですか?
日常の中のもの、全て面白いんです。でも、それを直接伝えるんじゃなくて、アニメーションにして、違うとこからやらないとダメで、絵コンテをちゃんと描かなきゃって。そうすると1~2年かかるぞ。って、そんなふうになっていくんです。とりあえず今は、2つの作品を仕上げないと。でも、アニメーションにしたいものは、たくさんあります。それは私の力と、集中力があれば...ですね。
一瀬さんの作品には、かわいくって、面白いんだけど、何となくちょっと悲しみだったり、やるせない感じだったり、ほっこりする感じだったりがちょこっとずつあるんですか、作品の中ではずせない要素や、テーマにしていることは何ですか?
私がテーマにしているものは、時間表現と、生死、生きることと死ぬこと。それがすごく面白いことだと思うんです。だからそれを作品に入れるようにはしています。それが、私のポイント。映画を見るのでも、人の一生とか、ドキュメンタリーもそうなんですけど、すごく好きなんです。テレビCMで、次にこういうドキュメントをやりますよっていう予告編を見ただけで、もうじーんとしてきちゃって。もう、涙ぼろぼろなんです。人の一生って、なんて面白いんだろうって思います。それをちょっと笑えたり楽しいことで表せたら、逆に悲しくもあるなぁと...だから、おじいちゃんを見ただけでも「すごい!この人はこれだけ生きてきたんだ」って。そして、じーんとくる。そういうのをアニメーションにしたくて。時間がかかったことと、生きることと死ぬことを直接的にではなくて、人に見せられるかたちで表現していこうというのはあります。
それは、面白いようなかたちで?
やっぱり人に見せる作品だから、人に見てもらうかたちにうまくまとめて、そこからは、見てくれた人が感じ取るはずだ、っていう。その力はあるはずだと思っています。

(2009年12月 一瀬さんのアトリエにて)


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