情報誌 毎月22日発行

1月号 / 2010

:表紙の人  クリハラタカシさん

09.12.17


クリハラタカシさん

アーティスト クリハラタカシさん
Takashi KURIHARA

プロフィール

クリハラタカシ:1977年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。1999年、漫画「アナホルヒトビト」でアフタヌーン四季大賞受賞、漫画家デビューを果たす。アニメーション作品には「ROBOTTING」(加藤久仁生共同作品)、「HAPPY BOGEY」などがある。初の単行本漫画『ツノ病』(2004年青林工藝舎刊) や、ゲームソフト「塊魂」の制作プロジェクトに参加するなど多方面で活躍している。
クリハラタカシさんホームページ

山村浩二の「私が推薦しました!」

無邪気なハッピーさの裏に、生き物として存在する寂しさが漂う。この無気力感を伴った哀愁は初期の作品『夕暮れ団地』で色濃く表現されている。『ハッピー・ボギー』では、アイディアの豊富さに驚かされ、そのユーモラスな形態や動き、展開に思わず笑ってしまう。存在そのものがナンセンスなおばけたちは、無表情にコミュニケーションを取り合うが、観客はコミュニケーションそのものに意味を見いだす事はなく、存在そのものの無意味さに徐々に脱力させられる。アニメーション表現として斬新な魅力を持っている点に注目したい。
山村浩二さんWEBサイト:「YamamuraAnimation」

《HAPPY BOGEYS》 クリハラタカシ

《HAPPY BOGEYS》2000年、1分22秒、アニメーション


《夕暮れ団地》 クリハラタカシ

《夕暮れ団地》2000年、1分30秒、アニメーション


 『ツノ病』(青林工藝舎刊) クリハラタカシ

『ツノ病』(青林工藝舎刊)2001年~、漫画


※ 「ヨコハマ・アートナビ」では、東京藝術大学大学院映像研究科の協力により、若手アニメーション作家をご紹介しています。毎月、登場する作家は、『頭山』や『カフカ田舎医者』で世界最高峰のアニメーション映画祭のグランプリを多数受賞した、山村浩二さんによるセレクション。2009年5月より、作家のインタビューとともに動画を配信しています。(~2010年4月)

漫画やゲームソフトのキャラクターなど多方面で活躍しているクリハラさん。アニメーションではフッと肩の力が抜けるような作品を作り出しています。クリハラさんに作品についてお話を伺いました。

情報誌「ヨコハマ・アートナビ」平成22年1月号表紙掲載作品
クリハラタカシ《HAPPY BOGEYS》2000年、1分22秒、アニメーション

落書きから生まれたボギー

ハッピーボギーについてお聞きしたいと思います。すごくいい雰囲気をかもし出していますが、あの生命体はいったい何なんでしょうか?
妖怪みたいなものです。でも、妖怪と言うとおどろおどろしすぎるので英和辞典で調べてBOGEYという名前をつけました。ボギー(BOGEY)には「おばけ」っていう意味があるらしいです。ゴルフのボギーと同じ綴りみたいです。
ハッピーボギーをつくるきっかけは何だったんですか?
元々はノートの落書きだったんですけれど一番最初に人前に出したのは、たしか大学1年生のときの芸術祭の展示のポスターです。
ポスターに描いたイラストだったんですか?
はい、ポスターと言ってもハガキサイズ位なんですけど。しかも、当時は誰もパソコンを持ってかったので手描きポスターでした。で、そのポスターに描いたボギーのほうが、展示の為に描いたイラストよりお客さんの評判が良かったので、2年生の時の芸術祭では作品に格上げしてボギーのイラストみたいなコマ漫画みたいなものを、シルクスクリーンで作りました。アニメーション版の「動くボギー」が出来たのは3年生の時の芸術祭です。加藤久仁生くんを含む数人と映像展をやったんですけど、みんなの作品の間のキャッチアニメとして作りました。画面に登場して、次に上映される作品名を紹介するという役割でした。その展示が終わったあと、ボギー達をひとまとまりにして独立した作品にしようと思い、今の形になりました。その時にタイトルが必要になって「HAPPY BOGEYS」という名前をつけたんです。
加藤久仁生さん・・・アニメーション作家。「つみきのいえ」で2008年に世界最高峰のアヌシー国際アニメーション映画祭で短編作品に与えられるアヌシー・クリスタル賞(最高賞グランプリ)を受賞。今年、2009年には第81回アカデミー賞の一部門である短編アニメーション賞を受賞。1977年生。多摩美術大学出身。

見た人が幸せになれるほうがいい

どうしてボギーに"ハッピー"をつけたんですか?
人が幸せになれるような明るいものを作らなくては...と考えていた時期で、でも、どうしたらいいのか全くわからない状態だったのですけど、とりあえずハッピーって最初に宣言してしまったという感じですね。
どうして、明るいほうにいかなきゃ、と思ったんですか?
当時、「アナホルヒトビト」という漫画の作品を一年間籠って描いた後で、それがまた結構、暗かったり重かったりする話で、それはそれで良かったんですけれどその反動ですかね。やはり物を作る人としては幸福感のあるものを提示できた方がいいのかなと思ったからです。自分の中の課題としてですけれど。
アニメーションよりもマンガを作るのが先だったんですか?
はい。アニメーションの授業が始まったのは、3年生だったんですけれど、色々な人と大学内で娯楽的な作品を見せ合えるのが、漫画を独りで描いてた自分にはとても新鮮で単純に楽しかったです。
最初にボギーをイラストで描いて動かして「あ、面白いことになってきた」と思ったところって、どんなところですか?
自分でも何が面白いのか言葉にできないものができて、それを見てくれた人が笑ってくれた時ですね。
まさにそういう感じでしたね。何だかわからないんだけど、見入っちゃうし、クスッとなりました(笑)。クリハラさんが狙っていたハッピーボギーのテーマは何ですか。
元々自然発生的に出て来たので、テーマは特になかったのですが、幸福感のあるものにはしたいと思いました。作る上でのテーマは、なるべく産みの苦しみを感じないで作る事です。(笑)
音声も一人で作ったんですか?
いや、音声は同級生で同じ苗字の栗原トオル君にお願いしました。バンドをやっている人なので最初は音楽をつけてもらいにお願いに行ったんですけど、トオル君が声を1音1音録音してPC上で並べ替えてしゃべらせるという変な一人遊びをしていて、それ面白いねという事で今の形になりました。トオル君の家は京王線の線路横にあったので、電車が来ない間を狙って録音するのに苦労しました。
このボギーたちは何かを話してますね。何を話しているかを知りたい!と思わせる。そういう感じを狙ってますか?
上映したときの、パンフレットには「謎の生物たちの謎のメッセージ」っていうストーリーにしていました。
謎のメッセージ!?それは、見る人が自由に想像してねっていう思いがあるのか、栗原さんの中では、このシーンのここでは実はこう言っている、というのがあるんですか?
具体的なものはないです。何だろう。何ですかね。何か偉大な事を言っていて欲しいですね。でも誰にも解読不能なの。
意味がないような感じというか、ストーリーがないような感じというか。そういう無意味の意味というような、ストーリーに筋がないからこそある面白さというのはどのように考えていますか。
プリミティブな遊びの面白さが込められればいいなと思います。例えば、ボールペンをカチカチして先っぽが出たり入ったりするのを見たら、何かしらみんな感じるはずです。面白いまでは行かないとしても面白い未満の感情。そんな感じを掬いだせたりクローズアップできたらいいなと思っています。そして、見ている人の面白さの沸点がどんどん下がっていく作品を作れたらいいなと。ハードルがどんどん下がっていけば、次をつくるのも楽だし(笑)。作品を見た人が、日常で箸が転げてもおかしい状態になれる作品ができたら本当にすごいと思います。あと、『面白い』と『つまらない』のギリギリのラインを探すのもまた面白いです。「そもそも面白いってなんだ?」という状態になるのも面白いです。その辺は作り手の楽しみですけれど。
すごいところを狙ってますね。ストライクゾーンのぎりぎりに入っていく感じ。
逆を言えば、はずしても自分が傷つかないラインなんですけど(笑)
どうして、ぎりぎりのラインを狙おう思ったんですか?すっごい笑わせてやろう、というものを作ろうとは思わなかった?
実際のところ、王道をやりたくても出来ないからそう言っているような気もしますし、本心はもう分からないところです。
なぜ、筆ペンで描こうと思ったんですか?
なるべく思いついた勢いでアニメーションを作りたかったからですね。細い線で描くと、ちょっとしたブレが出るとそれが目立つんですけれど、筆ペンだと最初からブレブレなのでちょっとくらい雑でも許されるので。(笑)
自分はこういうテイストなんだって?
ジブリ作品とかノルシュテインさんの素晴らしい作り込みの作品とは正反対の場所に自分の居場所を確認しておきたかったんですね。ボギーは、楽しく落書きをしてる気持ちに戻れる場所です。例えば漫画制作に苦しくなったとき、ボギーを考えると脳みそが楽になります。

2010年はハッピーボギー生誕10周年!

今後もマンガとアニメーション両方をやっていこうと思っていますか?
はい。何かで生計を立てながら。(笑)
ボギーは漫画ではなく、アニメーションだったからこそ生きてきたのでしょうか?
そうですね。ボギーは漫画よりアニメーションの表現の方が向いていると思います。例えば、ストーリーのある物は漫画で表現したほうが効率がいいので、漫画で描きます。内容を表現するのに向いている方で作ろうと思っています。
説明できないようなものは、アニメーションのほうが表現しやすいと・・・?
いや、漫画向きのボギーを思いついたら漫画にします。今のボギーは動きと変形のアイデアが中心なのでアニメーションに向いているという事です。
2002年にハッピーボギーの第7話があって、2009年に第8話ができるまでに時間が空いているのは、何か理由があったんですか?
その頃仕事が忙しくなってきたのと少しボギーに興味が薄れてきたからかもしれません。
今回、どうして第8話を作ろうと思ったんですか?
卒業後も、大学の先生が時々学生にボギーを見せていたらしいのですが、作った当初より最近の方がウケがいいと言われて色気が出て来たのと(笑)、2009年の秋に「Into Animation5」という上映会があって、新作を作らなくてはいけなくなったからですね。あとは、2010年がアニメーション版のハッピーボギー生誕10周年なので、もう少し新作を作りつつ、1回全部きれいにまとめ直そうかなって思っています。音声もノイズが多いので録りなおしたり...絵も直せるところは直そうと思っています。それによって失うものも有ると思いますけれど。
10周年を迎えたら、そこで終わってしまうんですか?
いや、せっかく再開したのでじわじわ続けていく予定です。今まで作ったのが50匹位いるんですけれど、まだ動かしていない新しいボギーの在庫は、もうそれと同じくらい溜まってます。
在庫!?(笑)
とりあえず100匹まで増やして百鬼夜行にしてみたいですね。

(2009年10月 横浜にて)


ケータイサイト

Copyright ©
Yokohama Arts Foundation.
All rights reserved.