
11月号 / 2009
:インタビュー「八谷和彦さん」
09.10.19

メディア・アーティスト 八谷和彦氏
Kazuhiko HACHIYA
プロフィール
メディア・アーティスト 佐賀市出身。1966年生まれ。
九州芸術工科大学(現九州大学芸術工学部)画像設計学科卒業。個人TV放送局ユニット 「SMTV」やコンサルティング会社勤務を経て現在に至る。
作品には《視聴覚交換マシン》や《見ることは信じること》(今回出展予定)などの特殊コミュニケーション・ツール・シリーズ、ジェット・エンジン付きスケート・ボード《エアボード》やパーソナルフライトシステム《オープンスカイ》など機能をもった装置が多い。メールソフト《ポストペット》の開発者でもあり、ポストペット関連のソフトウェア開発とディレクションを行なう会社「ペットワークス」の代表でもある。
八谷和彦さんの公式HPはこちら
イベント
10/31(土)~11/29(日) ヨコハマ国際映像祭2009
<会>新港ピア(メイン会場) BankART StudioNYK 等周辺会場
<問>
ヨコハマ国際映像祭2009
「オープンスカイ プロジェクト」北海道でのテストフライト
撮影:米倉 裕貴
1993_Inter DisCommunication Machine
撮影:黒川未来夫
ピンク色のかわいらしいクマ《モモ》のキャラクターでおなじみのメールソフト『ポストペット』の開発者でメディア・アーティストの八谷和彦さん。近年では、一人乗りの小型飛行機をつくるプロジェクト『オープンスカイ』で様々なメディアから注目を浴びています。10月31日から開催されるヨコハマ国際映像祭2009に出展される八谷さんに、作品づくりについてお伺いしました。
作品をつくるのがゴールではありますけど、それだけが目標ではないですね。
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作品をつくる際のアイデアは、どんなところから、どんなふうに選んでいくのですか?
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「アイデアがいいですね」と、アイデアを褒められることが多いのですが、実を言うとアイデアは、作品の要素の1%以下でしかないんです。例えば、オープンスカイ。宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』を見た人は「※メーヴェが欲しいなぁ」「乗ってみたいなぁ」と誰もが思いますが、では、実際にそれをつくるとしたら、どうやったら出来るのか、制作期間はどのくらい必要か、予算はどのくらいかかるのか、法律上どういう制限があるのか、実際に乗りこなせるのか、などアイデアを実現する方法をひねり出したり、試行する時間のほうがはるかに長い。僕はその長さに耐えられる、というかそういう作業が好きなだけで、そういう意味で、僕のアイデアというのは特別優れている訳ではないです。
※メーヴェ...アニメーション「風の谷のナウシカ」に出てくる架空の飛行機。
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試行している段階で、やっぱりこれはダメだな、となることもあるのですか?
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それは、あんまりないですね。普通は、「実際に作ったら数億かかるから無理だ」とか、2ちゃんねるのスレッドにネガティブなことが書いてあったら、やっぱり無理なんだ、とか思うんでしょうけど...。でも、2ちゃんねるに書いてあることがすべて事実ってわけではないんで。だから、情報から先に入ると、あんまり良くないような気がするんですよね。スタディは大事なんだけど、情報よりも先に、原理的なこととか原則的なことをちゃんと調べます。似たようなことをやっている事例はないかとか、インターネットで調べることも多いんですけど、それだけじゃなくって、例えば飛行機の開発のプロセスだったら本を読んだりすることもあるし、縮小模型を作って検証したりもします。特殊なことをやってるように思われるかも知れませんけれど、むしろ企業や社会人の皆さんが普通にやってることと同じですよ。例えば、見積りをとるという作業。見積りをとるというのは学校で習わないことなんですけど、それは、社会人の仕事の本質だと思っていて、何かをつくる場合、例えば雑誌をつくるとすると、ゼロ号がキモなわけですよ。費用がどのくらいかかって、どういう人が興味を持ってくれて、どういうところに置いたらどういう効果がある、とか一回つくるとだいたいわかりるので、コストとそれによって得られる効果を本編つくる前に見積もるわけですよ。僕は、そういう作業をアートでやってるっていうだけで。だから特殊なことをしているというわけではなくて、社会人の皆さんがすでにやっていることをやっているだけなんです。自分のやっていることというのは、結構泥臭い部分も多いです。例えば、輸送のこととかも考えなくちゃいけないし、「出来上がった!でもドアから出なかった...」なんてことにならないよう(笑)、作品をつくる場所を確保するとか制作の段取りを考えていく。プロジェクト・マネジメントをしていくのが楽しいし、実際の作業ってほとんどそこですね。僕の場合だと、外注でつくるケースも多いから、そういう作業が多いですね。なんか、全然アートじゃない感じの話になっちゃいましたけど(笑)。
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これまでにはなかった作品をつくられているわけじゃないですか。できるのかできないのかわからないところもあると思うのですが、それを本当に実現するというのは、やっぱりご自分のモチベーションなのかな...というふうに思うのですが。
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基本的に僕は、以前経験したことのないことをやるのが、楽しいと思うタイプなんです。例えば、オープンスカイをやるときは、事前にハンググライダーのトレーニングもするんですけど、大変といえば大変なんです。朝4時に起きて筑波の先の山まで行って、それで天気が悪くて飛べなかったら練習も出来ずに帰ってくることもあるわけですから。そういう大変さはあるんだけれど、練習して初めて飛んで、一人で空にぽつんといるっていうのは、自分がこの機体をコントロールして無事に着地点に降りなければならない状況な訳で、すごく緊張するのと同時に、とても楽しい。人間が今まで、少なくとも百年ぐらい前までには体験したことのない楽しみなわけです。自分がそれを学んでできるようになるというのは、すごく面白いことだと思うんですけど。それで、作品のモチベーションがあがるっていうよりは、プロセスにおいて得るものが途中でも沢山あるから、モチベーションがそこで続くようにはなりますけどね。
そこで「起きること」を作品にできる ~インタラクティブ・アート~
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八谷さんの作品は、鑑賞するというより、人がそこに参加したりとか、体験することを重視しているように感じたんですが、そういう部分にこだわりを持っていらっしゃるのでしょうか?
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こだわりはあります。縁あって今はアーティストをやっていますけど、最初からアーティストになろうと思って大学で勉強していたわけではないので。そういう人が作家として作品を作ることになったとき、自分の今までの人生でやってきた中で、自分が得意なことや、好きなことはどういうことなのか?と真剣に考えたときに、『技術』、『テクノロジー』を使ったことをやっていこうと思ったんですね。絵や彫刻と、インタラクティブ・アートとの最大の違いというところでは、インタラクティブ・アートは、体験そのものが作品になるということが可能なんです。デビュー作の「視聴覚交換マシン」という作品は、二人の人の視点が入れ替わってしまうというものなんですが、作品そのものは、羽の生えたバックパックとゴーグルで、それを見ても何もわからない。作品の本質というのは、それをつけた観客二人の間に起きることだったりするんですね。そして「そこで起きること」というのを作品にできるというのは、現代美術のキャパシティの大きさだと思うんです。
それから、僕の場合は作品を作ってそれを自分が使ったり、人に体験してもらうのがゴールではありますけど、それ自体が目標ではないんです。例えば山登り。ゴールである頂上にへリコプターで行くことも可能かもしれないけど、それだと面白くない。僕はせめて最後の3合分くらいは、自分の足でちゃんと登りたい、と思っています。自分の足で登るから遭難しないためにちゃんと準備をするし、途中で自分が発見していくものがある。また苦労もあるけど、途中の眺めも楽しめる。仮に途中で停滞したとしても、これが正しい、自分がこれをやるべきだと思うことを手順を踏んでやっていくことが一番大事だと思います。
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「技術を使ったことをやっていこうと思った」とおっしゃってましたが、作品は、技術としては最新のもの、でも、表にあらわれるものは、ぬくもり感のあるものという感じがしたんです。そのあたりのことは、ご自分で意識していらっしゃるのでしょうか?
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実はですね、今「最新の技術」っておっしゃってましたけど、僕が使う技術は、結構ローテクで、安くなってきて、「アホなことに使える段階」になった技術をよく使うんです。例えば、ジェットエンジンなどは昔はそんな簡単に買えるものじゃなかったんですけれど、今は、頑張ってお金を出せば入手可能になってきているんです。以前「エアーボード」っていうジェットエンジンで浮いてすべるスケートボードを作ったんですが、普通は、ジェットエンジンを使うといったら、推力、例えば前に進むために使うんですけど、これっていうのは浮くためだけにジェットエンジンのパワーを使っていて、前に進むのは足で地面を蹴って進むんです(笑)。
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アナログな感じですね。
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そういうある意味非常にアホっぽいことをするのが好きなわけです。最先端の技術っていうのは、普通に使うには高いし、そういうバカなこととかアホなことに使っちゃダメってわけではないけど、やっぱり使いにくいんですよね。だからその辺のぎりぎりのラインというか、あんまりこういうことに使った人がいないけど、こういうアホなことに使えるんじゃないかな...という時期になった頃に、その技術を使って今までになかったものつくるってことが多いですね。さっき、ぬくもりとおっしゃいましたけど、僕としては『笑える』ものもイメージしているんです。それは、ただお笑いのものを作りたいわけではなくって、『なぜかわからないけど笑える』というもの。人間って、どう対処していいのかわからないことに出会うと、つい笑ってしまったりしますよね。そういう笑いを目指しているんです。実際にこのジェットエンジンが目の前で回ってると、小さいながらもすごく危険な感じと、燃焼が起きているわけだからコワイという気持ちと、でもパワーを出しているという感じがわかるんですね。『これはちょっとヤバイもんなんじゃないか』と。でもそれを使って、浮いてすべるみたいな状況をつくってあげると、なんていうか、みんなつい笑っちゃうんですよね。ある意味ナンセンスなんだけど、経験したことがないことに人間が対処したときにどう思うかとか、そこに本当は興味がある。作品を一番最初に体験するのは自分なんですが、自分自身がそういうヘンな体験をしてみたい、というのも動機のひとつですね。
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以前のインタビューで「今のコミュニケーションのあり方って、どうなのかなって思うところもあって、しばらくちょっとあまりコミュニケーション系の作品はつくっていない。そろそろ、電子的でないコミュニケーション作品に取り組みたい」ということが書いてあったのですが、それは具体的に何か考えていらっしゃいますか?
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インタビューで「どうなのかな」と言ったのは、ポストペットを作っていた時期と、今とを比べて言ったのだと思うんです。ポストペットを作っていた時期は、インターネットというのはフロンティアだったんですね。でも、今はそこに参加する人たちもいっぱいいて、商売もいっぱいやられて、そこはもうフロンティアじゃなくなっちゃったんで、そういうことを言ったんだと思うんです。だから今のネットのあり方というのを否定しているわけではなくて、自分がもしやるとしたら、今あるサービスとは別のものをやりたい、という気持ちがあるだけですね(笑)。今は実際iPhone用のアプリケーションとか作ってもいますが、それは、いくつかシリーズで作ってみようかと思っていて。すごい売れ線というか、カワイイものも作りたいですし、もうちょっと実験的なものも作りたい。カワイイこれ!ていうものでなるべく稼いで(笑)。稼ぐっていうと悪いイメージもありますけど、お客様にお金を頂けるものをきっちりつくるというのは、それはそれで高度なことで、そういうのをきちんとやってみたいと。それだけじゃなく、お金は全然儲からないんだけれども面白い、というものも当然合わせてやっていきたいと思っています。
子供が生まれてから、なおさら考えるようになりましたね。
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お子さんが生まれたことで、変わってきたこと、考え方に影響があったとかご自身の作品に影響を与えたりとかというのはありますか?
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あると思いますね。NHKの「ようこそ先輩」という番組に出たときに「馬を飼う」というテーマで、小学校で馬を飼ったんです。運動会で使うテントで厩舎を作って、身近にあるもので馬を飼える環境を用意して、子供たちには農家に藁をもらいにいかせて。NHKの方たちは、僕がポストペットを作った人ってことで、コンピューターの授業のようなものを期待されていたようですが、コンピューターの授業とかって、12歳の子たちが20歳過ぎになった頃には、コンピューターの概念が今とは全然違っちゃうと思うんですね。子供のときに必要なのはむしろ、自分よりも大きい動物とどう付き合うかとか、馬というものがどういうものなのかとか、馬の世話をするときにどういうことに気をつけるべきかというように、生き物の世話をすることによって普遍的なことを発見することが子供に必要だと思っているんです。そのときに、ウサギやハムスターみたいに自分よりちっちゃい、弱いものじゃなくて、自分よりも大きく、強いものを扱うっていうのをやらせたかったんです。えさも飼い葉の藁を切る大きなガッチャンガッチャンってやる道具で切ってみるとか、そういう体験をさせたいと思って、長崎から木曽馬を借りてきたんですけど、すごく面白かったです。馬2頭連れて、学校の近くの川に行って乗ったりとか。
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馬に乗られたんですね。
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乗れますからね、馬は乗れるのが楽しい(笑)。女の子が散歩中馬に足踏まれたりとか、そういうことに気をつけることも、子供のときに身につけておくべきことじゃないかと。そういう本質的なことを馬と一緒だと学べるんじゃないかなって思って。自分の将来の作品スタディの一環として、自分も身近で馬を飼ったことがないから、その収録プランにしたんですけどね。そういう教育とか、今の子供たちがおかれている環境みたいなのを、子供が生まれてから、なおさら考えるようになりましたね。それに、自分が子供の頃の気持ちみたいなものを連動して思い出すのも、非常に面白いなって思いますね。
子供が生まれると、自分だけで終わりじゃなくって、自分が死んだ後もこの子は生きていくんだと思うと、快楽的に生きるというよりはむしろ、化石燃料をできるだけ残さなくちゃとか、残すためにはどうしたらいいか、とかあるいは人間が気持ちよく生きていける環境ってどういうものかなどを考えるようになりましたね。そういう自分の変化は面白いですね。
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お子さんに、こういうことを体験してもらいたいなっていうことはありますか?
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美術作品をたくさん見て欲しい、というのはあんまりないですね。そういうアートの面白さっていうのは、ある程度大人にならないとわかりづらいものだと思うんで。むしろあんまり連れて行っちゃうと嫌いになりそうだから、やめようかなと。美術は、危なかったり怖かったり、人間の心っていうのはすごい振れ幅があるんだっているのをわかるようになってから見ればいいと思って。今はなるべく、海に連れて行ってみたりとか、自然がたくさんあるところに連れて行ったりしたいと思います。
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八谷さんにとっての現代アートとは?またその可能性というのは?
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現代アートって、昔だったら「何これ?わからん」とか「前衛芸術か...」で片付けられてしまっていたように思うんです。でも、近頃はつくる側と見る側との間に立つ人たち、つまり展覧会を準備する側の人たちによって、よりわかりやすく、作品を味わうための手はずが整えられてきたように思うんです。今回は映像中心の展示ですので、多くの人に伝わりやすいものが多いとも思います。僕自身、それらの作品を観るのを楽しみにしてます。
(2009年8月 東京都渋谷区 株式会社ペットワークスにて)