情報誌 毎月22日発行

10月号 / 2009

:表紙の人 植草航さん

09.09.11


アーティスト 植草航さん

アーティスト 植草航さん
Wataru UEKUSA

プロフィール

植草航(うえくさ わたる):1987年千葉県生まれ。東京工芸大学アニメーション学科卒業。2008年、NHK「星新一ショートショート劇場」♯14「薬と夢」映像制作、フジテレビ系列「SMAP×SMAP」ブリッジアニメーション制作、フランスの大手マンガ出版社デルクール社発行バンドデシネ「シヤージュクロニクル外伝」に短編マンガ掲載。09年、「向ヶ丘千里はただ見つめていたのだった」が、第一回下北沢映画祭グランプリ受賞、ASK映像祭2009コンペティション西村智弘賞受賞。現在、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻在学中。
植草航さんWEBサイト:「絆創膏」

植草航さん作品
「向ヶ丘千里はただ見つめていたのだった」上映情報

ヨコハマ国際映像祭2009 セレクションプログラム
「現代日本のアニメーション集」山村浩二セレクション
日時:2009/11/7(土)15時、11/23(月・祝)15時
場所:東京藝術大学大学院映像研究科馬車道校舎
詳細→ヨコハマ国際映像祭2009

山村浩二の「私が推薦しました!」

自分の身体の外側に何かを形作ることで、世界ー内ー存在の不安定な位置や輪郭を確かめるために、人は表現をする、あるいはせざるをえないのだろう。植草作品には、ティーンエイジの少女がいつも登場する。身近な存在でありながら未知の存在でもある少女に、自分自身の存在の揺らぎを託しているように見える。刹那に向かって疾走していく巧みな作画のなかに、現代の日本に生きる20代の作者の心の影が透けて見えてくる所がとても興味深い。
山村浩二さんWEBサイト:「YamamuraAnimation」

chisato_250.jpg

《向ヶ丘千里はただ見つめていたのだった》、2009年、5分21秒、アニメーション


akaikutu_250.jpg

《赤い靴》2006年、2分30秒、アニメーション


usagigaiinoni_250.jpg

《うさぎがいいのに》2007年、40秒、アニメーション


※ 「ヨコハマ・アートナビ」では、東京藝術大学大学院映像研究科の協力により、若手アニメーション作家をご紹介しています。毎月、登場する作家は、『頭山』や『カフカ田舎医者』で世界最高峰のアニメーション映画祭のグランプリを多数受賞した、山村浩二さんによるセレクション。2009年5月より、作家のインタビューとともに動画を配信しています。(~2010年4月)

爽快なスピード感のあるアニメーションを手がける植草さんは、数々のイラストもインターネットで発表。NHKでの短編アニメーション制作に携わるなど活躍の場を広げる植草さんにお話をうかがいました。

情報誌「ヨコハマ・アートナビ」平成21年10月号表紙掲載作品
《向ヶ丘千里はただ見つめていたのだった》、2009年、5分21秒、アニメーション

ただひたすら"一瞬"のためだけに走り抜ける、そんな作品を作りたかった

この作品をつくるにはどのくらいかかりましたか?
14~5ヶ月くらいです。期間的には長かったんですけど、間に仕事をはさんでいたりしたので、実際に作業したのはそのくらいです。
どうやって描いているんですか?
線画は1枚1枚シャーペンで描いて、それをパソコンに取り込んでデジタルで色をつけてます。
何枚ぐらい描いたんですか?
だいだい2,000枚くらいですかね。
このタイトルに出てくる名前は、なぜ「向ヶ丘千里さん」なんですか?

向ヶ丘遊園からとりました。小田急線で大学に通ってたんで(笑)。新百合ヶ丘とか「何とかが丘」っていうのがいいかなって。

走っている女の子が向ヶ丘千里さん?
はい。キャラクターが二人いるんです。向ヶ丘千里は、めがねをかけた女の子に自分の存在を気付いてもらいたい一心で色々やるんだけど、なかなか気付いてもらえない...というようなストーリーです。最後はお互いの存在を認識し合って終わるんです。
設定が学校だったということもあるんでしょうけど、作品から思春期の自分自身の存在の危うさのようなものが感じられました。何かそういうテーマがありましたか?
はい、自分という存在になかなか気づいてもらえない、いるんだけど、いない、みたいな。自分があやふやな存在になってしまう感じです。映像的な部分では、ただひたすら"一瞬"を追うというか、ワンフレーズに向かって進んでいくというのを意識した作品にしたくて。
一瞬を追う?
もともと音楽を聴くのが好きなんですが、中でも最大に盛り上がる頂点へ向かって進んでいくような曲は聴いていてとても気持ちがいいんです。その気持ちよさを映像化できたらなと思って。音楽で、曲の中のこのワンフレーズが聴きたいがために、曲全部を聴き切ることって結構あるじゃないですか?そういう感じで、そのワンフレーズを聴くために、そこに向かって走っていって頂点を迎えて終わるようなアニメーションをつくってみたくて。最初にそれをテーマにしようかなぁと。
内容自体のテーマはどうやって決まったのですか。
結構自分も無意識で作っていることもあるので、描いているうちに何となく、ぼんやりと頭の中に入ってきたりするんですが・・・。トラウマを消化して1歩先に進むような感じのテーマが最初にあったんですけど、本当につくっているうちにどんどん変わってきてしまって。
トラウマを消化したいと...。何かご自身でこの作品のテーマにつながるような体験があったとか?
ずっと作業をしていると「自分は、何で絵を描いているんだろう」って思うことがあるんです。でも、それを乗り越えて形になったときに、一歩先に進めるんじゃないかなって。単純に、そういう意味で一瞬を追うということと、形になった瞬間を追うっていうことが結びつくと思って...そんな思いも自然にこの作品に重なりました。 あとはそうですね・・・、自分という存在をある特定の人に気付いてもらいたいんだけど、なかなか興味を持ってもらえない、でも、すごく頑張って、相手に「ありがとう」とか「おはよう」って、一言でも言葉をかけてもらえたらうれしいと思うんです。そんな些細なことに対してすごく一生懸命になってしまうというか。そういうことを表現したかったのかなって。
先ほど、『自分があやふやな存在になってしまうというか...』と、おっしゃってましたが、ご自身のそのような体験はいくつぐらいの時でした?
今だにそうかも(笑)。周りの友達とか見てて、大人だなぁって思ったりします。今だに俺、思春期なのかななんて思ったりして、ちょっと不安になったりするんです(笑)。
同世代の人、あるいは同じ学校に通っている人たちにも作品を見てもらったりしました?
後輩の子に見てもらうと、気持ちよかったですとか、そういう感じの意見があって、良かったなぁって思います。
それはスピード感とかそういうところなのかな?
まだまだ分からないのですが、間やテンポは気を付けて研究していきたいと思っています。
作品はどうやって作っていったんですか?あるシーンから膨らませていったとか、きっかけになる出来事があってそこから構成を作っていったとか。
まず最初に、(作品の最後の方に出てくる)髪の毛がふわーっとなる瞬間の映像が浮かんで、そのシーンを一枚の絵に描いたのをもとにして考えました。あそこに行くまでに、自分はどういう希望を持っているんだろうとか、あそこにいくまでにどういうことがあったんだろうって考えてみたんです。
曲は、最初からあった曲ですか?
後輩に頼んだんです。曲の構成は頭の中で一応できていて。「何か一点に向かって走っていくような音楽を作ってください」って、構成だけを伝えて任せたんです。その人とはよく音楽の話をするんですけど、自分の趣味を一番わかってくれている友達だったので。
構成以外で他に注文したことはありますか?
構成以外は、特にはなかったです。一応、こういう感じっていうサンプルの音楽のファイルは渡していたんですけど、だいたいはひとつのリズムで繰り返しの曲で、だんだんと楽曲というか、段階をふんでサンプリングのような感じで、音を重ねてって、一旦、止んでから爆発するような構成にしてくださいってお願いしたんです。

アニメーションという動きを追加することで新しいことができるんじゃないか。

いつごろからアニメーションを作ろうと思ったんですか?きっかけは?
高校...その前から興味はあったんですけど、その頃はイラストをずっと描いていて、インターネットでちょくちょく発表していたんです。だけど、いざアニメーションに進まなきゃいけないって状況になった時に、自分の絵がアニメーション向きの絵なのかも知れないって思えたんです。イラストで描いていたキャラクターを平面だけではなくて、動きっていうものをプラスすることによって新しい個性が生まれないかなって。向ヶ丘千里は人ですけど、それまではモンスターとかをずっと描いてて。キャラクターにアニメーションという動きを追加することで、何かさらに新しいことができるんじゃないかなと思って、アニメーションを学ぼうと決めたんです。
新しいこととは?
新しいことというか、個性がきわ立つというか。もちろん1枚の絵でも魅力はあるんです。1枚絵には1枚絵のやり方があると思うんです。でもアニメーションは、何ていうか、そこでも一瞬を追うことができるというか。一瞬だけ気持ちがいい瞬間があるからこそ見ることができるというか、作れるし見れるしという...。
『気持ちがいい瞬間』ってどういう瞬間なんでしょうね。
それは人それぞれだと思うんですけど、僕の場合は曲を聴いているとき。曲を聴いていて気持ちいいと思う瞬間。僕の中ですごく楽しいので、そういうものを映像化できたらなって。
曲を聴いていて気持ちがいいとは、具体的にどんなとき?
まだ模索中で...。それって、どういう時のことを言うんだろうって考え中なんです。多分、曲の緩急というか浮き沈みではないかなと思ったりして。構成ってところでちょっと考えているんです。構成といっても音楽とかやってなかったんで、ザックリとしか説明できないんですけど、何ていうか、難しいですね。曲の組み立て方次第で違う快感が生まれるんじゃないかって。それに絵を当てはめていったらアニメーションになったっていう。作り始めたときは、あまりそういうことは意識してなかったんですけど、作っているうちに自分がやりたいことって、そういうことに近いんじゃないかなって思ってます。
イラストをずっと描いていたということですが、影響を受けたものがあったのですか?
ポケモンですね。ポケモンとかデジモンとか。ポケモンは、何か自分のオリジナリティーで物語が進められるというところに惹かれて。デジモンは、パソコンを初めて触って、はじめて開いたページがデジモンのページだったんです。中学校1年ぐらいのとき、父親が使ってたパソコンに触らせてもらって。その時にデジモンのサイトを見て、設定が色々と書いてあって、想像力をかきたてられるというか、何かそういう自分の中に、いいイマジネーションが働いて。
藝大大学院のアニメーション専攻に進んだのはどうして?
モンスターを描きたかったんです。
でもそれは、院に進まなくても...。
曲とのシンクロとを考えている作品を作ろうと思っていて、記憶というものをテーマにしたものを考えていたんです。大学4年の時は、部屋でいることがすごく多くて。たまに外に出て、友達に何か思わぬことを言われて、また家に帰ってまた一人になると、言われたことが頭の中でぐるぐる回ったりして。そういうことって、実はそんな深い意味では言っていないのに、その時の記憶が、自分の世界観ではぐわーって大きくなっちゃっうんです。被害妄想ではないんですけど...。そういうものをアニメーションにしたかったというのと、自分の性格的な部分もあって、周りに人がいたり、周りに自分と方向性が同じ人がいたりと、アニメーションを作っている人がいる環境がいいのかなと。人との間の距離をちゃんと保ちながらいれるのは、こういう場所かなって。

曲を聴いたときに感じたことが視覚化できる
~アニメーションの魅力~

イラストとアニメーションと、面白さってそれぞれ違いますよね。イラストの面白さってどういうこところでしょうか?
そうですね。難しいですね。イマジネーションが膨らませやすいのかも知れません。現実には存在しない瞬間を描けるからとか・・・
1枚で完結しているからこそ?
それから情報量も違うと思うし。アニメーションにするとキャラクターを簡略化させないといけないし。僕の場合、アニメーションは、情報量が少ないものを時間軸において動かすって感じなんで。情報量が多いイラストが求められているのかどうかわからないですけど。なんていうか。世界が分かり易いといか。世界観がぱっと目に入ってくるところがいいなと。
イメージする世界は、わりとすぐ手を動かして描いちゃう感じですか?
そうですね。結構、何も考えていないときに描くのもすごい大事だなって。そうやって描いたものを再出力するというか、清書するみたいな感じなんで。
アニメーションの醍醐味って何だと思いますか?
曲と通ずるテンポとか、単純に曲を聴いたときに感じたことが視覚化できるというところですね。
アニメーション作品で影響を受けたものはありますか。
湯浅政明さんの『マインドゲーム』という2004年文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞をとった作品です。高校のとき、たまたまDVDレンタルで見たんですが、この作品に衝撃を受けました。あとは、ACIDMANというバンドが好きで、プロモーションビデオshort film 「彩-SAI-(前編) / 廻る、巡る、その核へ」という映像を見たんですが、「こ、これだっ!」と思いました。すごかったという感じです。
今後やってみたいことはありますか?
ミュージックビデオを作りたいです。最初にゲームとかが好きでキャラクターを描き始め、その延長上でアニメーションに出会ってから、そこで初めて自分は音楽も好きだったんだなって気がついて。それらが融合したものが作れないかなって。見ていて気持ちのいい、前向きな作品を作っていきたいですね。

(2009年7月 横浜にて)


ケータイサイト

Copyright ©
Yokohama Arts Foundation.
All rights reserved.