情報誌 毎月22日発行

9月号 / 2009

:インタビュー 「中野成樹さん」

09.08.18


演出家 中野成樹氏

演出家 中野成樹氏
Shigeki NAKANO

プロフィール

1973年東京生まれ。演出家。中野成樹+フランケンズ(通称ナカフラ)主宰。「誤意訳」なる手法で、古くさく堅苦しいイメージの"名作翻訳劇"をいまの私たちに新鮮な舞台へと仕立て直す。ナカフラは翻訳劇を専門にあつかう国内では稀有なカンパニーでもある。本年4月より有明教育芸術短期大学の専任講師となり、学生へも「演劇発想の自由」を積極的に指導する。

中野成樹+フランケンズ オフィシャルサイト

http://frankens.net/

イベント

9/25(金)~27(日)各日15時30分
「Zoo Zoo Scene<ずうずうしい>」(再び)
<会>横浜市立野毛山動物園 ひだまり広場
<¥>2,500

<問>急な坂スタジオ 045-250-5388
http://kyunasaka.jp/

昨年5月に横浜市立野毛山動物園にて公演された2人芝居「Zoo Zoo Scene<ずうずうしい>」は、これまでにない観劇スタイルと、エドワード・オールビー原作の「動物園物語」を『誤意訳』により表現された演劇として大変話題となり、好評を博しました。多くの再演を望む声により、今年9月に再演が決定。急な坂スタジオのレジデント・アーティストでもある演出家・中野成樹さんに再演への意気込みを伺いました。

徒歩1分のところに動物園があるのに
何もしないのは、もったいない!

再演が決定したことに関して、ご自身のお気持ちをお聞かせください。
再演ができるというのは非常に嬉しいです。前回は、お客さんが入りきれなかったということもありましたし、自分としても手探りでやってしまった部分もあって、ちょっとした改訂も含めて、2年に1回くらいこうやって更新していくのが理想的だなぁと感じていたので。お客さんにも色々なタイプがあって、ひとつの芝居が更新されていくのを楽しめるお客さんもいるでしょうし、今一番旬の刺激の強い面白いものを探してっていうお客さんもいる。「もういっぺん見てみたら全然違うじゃん」とか「あ、やっぱこれ、つまんなかったんだ」とか「すごく好きだと思ったけど、今見ると、案外・・・。」っていうものであってもいいのかなっていう気はしてます。野毛山動物園のみなさまにもとにかく感謝です。今回は共催ということで、動物園ツアーもプロフェッショナルの方がやってくださることにもなりましたし、そちらも楽しみですね。
「ZOO ZOO Scene」を公演することになったきっかけを教えてください。
初めのノリはですね、駄洒落の発想なんです。初めに急な坂スタジオさんから話があったときに、「徒歩1分(急な坂スタジオから)のところに動物園があるのに何もしないのは、もったいない!」というところからのスタートでした。動物園と言ったときに「『動物園物語』ってあるよね」という話になったんです。原作の設定は動物園の中ではなくて、すぐそばの公園なんです。動物園に行って帰ってきた男が、動物園のそばの公園に座っている男に話しかけるという設定なんです。設定どおりでやれば、そこらへんの公園なんですけど。でもまあ、動物園の中で『動物園物語』をやろう!なんて単純な発想で始めてみたんです。
1から舞台会場そのものをつくるのは大変でしたか?
面白かったですよ。動物園にみんなで行って、まずどこに舞台つくる?ってところから始まって、それはなかなか経験できないことですよね。映画の人とかは逆にそれが苦痛なんだろうけど「ここもいいんじゃない、ここもあるね」なんていうことが非常に面白かったですね。
動物園という大空間で、演劇をつくっていく上での試行錯誤はありましたか?
野外でやるのが初めてだったんです。当然なんですが、野外でやると声が聞こえないんですね。音楽でいえば、室内楽をずっとやっていたようなものなので、いきなり外に行ってしまって、声が全然聞こえないって。そんな単純な問題か!と言われるかも知れませんが、こういうことが一番大きくて。今さらですけど、どうして演劇は大きな声を出さなければいけないのか?ということを徹底的に問い直すきっかけにはなりましたね。僕は基本的に台本は書かないで、もともとある本を多少書き直しをするくらいなんですけど、その書き直しをするにもやっぱり手間がかかるんですね。野外だから仕方がないんですが、その手間のかかった台詞をボソボソしゃべっていて、何をしゃべっているんだか聞こえないと腹が立ったんですね。「わかるか(怒)、俺昨日6時間かけたんだぞ、このシーンは!」って。普通に今までどおりやってくれてるだけなんだけど、「聞こえない!もうヤダ(怒)」という気持ちになってしまって。そうか、演劇が大きな声を出すというのは、やっぱり作家が苦労して紡いだ言葉をみなに聞かせるという前提があるからだ!ということは、自然に見せるってことは二の次なんじゃねえのって。演劇っていうのは、言葉が作品であって、それを生身の人間が体を使って伝達するってことなんだな、そんなことをあらためて考えるきっかけになったのは大きいですね。
動物園のツアーは、どのようなものですか?

昨年は急な坂スタジオのスタッフの方がガイドをやってくれたんですけれども、今回は多分、動物園の飼育員の方がやってくれることになっています。お客さんが60人以上になると、30人ずつで二手に分かれて連れて行くんですが、それがなかなか大変みたいで、必然的にこの人数になってしまうんです。

カラスと西日と帽子 ~昨年の公演~

昨年の公演はいかがでしたか?また、今年の課題のようなものはありますか?
新しい発見がたくさんありました。まずは、動物園と演劇の共通性。こんなにも似ているものなのか、と。例えば、動物園側のお客さんへの動物の見せ方で、自然に見せるべきか、それとも多少誇張してでも動物の能力を見せるべきかなんて、演出家が演劇をどう見せるかということとまるっきり同じで。そういうことが公演を通して非常によくわかったんですよね。見に来ていただいたお客様に、動物園のツアーをして動物を間近に見て、その後で演劇を見るということへの感想をお聞きしたら「なかなかない経験で、本当にいろいろ考えてしまうね」という言葉をいただいたんです。そのへんの結果も踏まえてですね、昨年とらえ切れなかった動物園と演劇の関係性や、手探りでやってしまった部分をもう一度きっちり整理をしたいなと思っています。それからカラス(笑)。カラスの巣が舞台の真上にあって、興奮して来園者を襲うようになってしまったんです。2回目の公演からは、舞台の位置を少しずらしたのですが、そしたら今度は、西日がきつくて、後半からほとんど舞台が見えないという席ができてしまったんです。急遽、帽子買ってきて、お客さんにそれをかぶってもらって、芝居を見ていただくということもありました。楽しかったです。本当に。今回も昨年と同じ場所に舞台を作る予定ですが、まずはカラスと相談ですね(笑)。
9月の公演はまた新しい台本で?
そうですね、書き直す部分があれば、書き直して。さっきの話ではないですけど、書けるかなあっていうのはあるんですけど、見せ方のコンセプトというか、提示の仕方のコンセプトみたいなものが、結局今回は何なの?っていうところがつかめれば、ポンと書けるんですけど、それがつかめないと書けないんで。さっき言った、動物園と演劇の関係とか、言葉と大きな声でしゃべる、の関係だったりとかそのへんを整理して、こういうことだろうなってことがわかれば、多分書けると思います。
通常、稽古にはどのくらいの時間をかけるんですか?
新作のときは、1ヶ月半くらいですね。再演の場合は、3週間とか1ヶ月とか。今回の公演は、コンセプトが決まって台詞がきっちり入ってしまえば、あんまり室内で稽古しても意味がないんで、動物園でやるしかないんだけれども、現地も普通に営業してますからね(笑)。前に稽古をゲリラでやろうってことで動物園でやりはじめたら、その周りで幼稚園の子供たちがピクニックみたいなのを始めて。わーっと集まってお弁当ひろげはじめちゃって(笑)。しょうがないんで、そこの(急な坂スタジオの)駐車場に移動して稽古しました。

「誤意訳」は余計なパーツを取り除いているだけ

今回の『動物園物語』のどのようなところに魅力を感じて『誤意訳』をされたんでしょうか?
『動物園物語』は、例えばジャズでいうと「ジャズ名盤はずせない50」とかそういうものに必ず上がってくるもの。僕の中では必ず入ってくる本なんです。実は、そういう本の魅力が何なのかは具体的にわからないことが非常に多いんですね。わからないから魅力的なんですかね。この動物園物語は、一番最後に声をかけた人が相手に刃物持たせて体を預けて死んでしまうという結末。書かれた当時も今も、おそらくその衝撃は変わらないんじゃないかなという気がするんですよね。例えば、その当時と今とでは犯罪の質が全然違うのかもしれないし、社会的な、例えば人間がもっている感覚も違うんだけれども、きっといまだに通用するショッキングな出来事なんじゃないかなと思うんですよね。そのショッキングなことを自分なりにわかってみたい、今の自分の気持ちで徹底的に理解してみたい、というところが始まりですね。『誤意訳』っていっても派手に変えているんですけども、自分の中では、初めて翻訳劇を見る人が見やすいように余計なパーツを取り除いているだけだと思っていているんです。世の中には、初心者にとっては厳しいしきたりみたいなことがあると思うんですよね、すし屋の値段が書いてないけど、値段書いたとたんみんな来るようになるとか、ルールがわかんない、しきたりがわかんないとか。そういうもんだからって言われても「そういうもん」がわからない。それをちょっと取り除けば、こんなわかりやすくなって、なおかつ、元のままの面白みが味わえるなら取り除けばいいじゃないっていう。ただ取り除くときに、調整が必要になって原作と全然違ってきてしまうことも多いにあったりして。それはそれでいいか...ということなんで。少なくとも今回に関しては、そういった誤意訳という方法をとっていますね。
内容的に、例えば原作の後のほうの部分を前に持ってきたりということもあるようですが、それもわかりやすいようにということで?
説明が非常に難しいところです。例えば堅苦しい名作をわかりやすくやりますっていうと、すごくシンプルに幼稚にしてしまうイメージもあるんですけど、そういうことではなくて。ほんのちょっとしたこと、さっき言ったしきたりをなくす、例えば具体的に言うと、翻訳劇の口調で「そんなことありませんぜ」の「ぜ」を削るだけでイメージって変わるんですよね。「そんなことありませんぜ」っていうのを「ないです」ってかえて、わかりやすくしたんだけれども、幼稚にしたのかっていうとそんなことはなくて、「ないです」っていう世界を成立させるために、ほかにたくさん「ないです」っていう言葉の温度と同じ言葉をちりばめていかないといけないということをやっている。で、順番を入れ替えたりとか、登場人物増やしたり、減らしたりもするんですけども、わかりやすく...っていう言葉になってしまうのかな。

可能性がありすぎてやめられない

中野さん自身が、演劇に興味を持ったのはいつごろですか?
簡単に言いますと、演劇を本当に開始したのは大学なんですね。大学で演劇学科というところに入ったんです。小さな頃から父親につれられてお芝居を、特に俳優座を見に行ってたんですね。なので演劇があるのは普通っていう感覚で育ったんで、なんとなく大学に進む時、ほんとになんとなく『演劇だ!』って思ってはじめたんですね。本当は音楽大学に行きたかったんですけど。
そのとき、ご自分で演じるというほうには行かなかったんですか?
演じるほうもやっていました。でも、初めから僕は演出希望だったんですね。大学に入ったときにコースが分かれてまして「演出コース」というところに入ったんです。どうして演出なのかというと、またこれもなんとなくなんです。当然、サークルに入って役者もやっていたんですが、役者で人前に自分をさらす快感とか、違う自分になれる楽しさというのは一切なかったんですね。演劇をつくるには、人と関係を築かなくてはいけないんですね。深く関係をとっていくというか『コミュニケーションの感じ』っていう言い方しかできないですけど、演劇はそれがそのまま舞台に乗っかっていく気がしたんですね。大学に入って、初めての舞台をやったときに『すげえぞ!これは!』って感じたんでしょうね。演出家と俳優とか、俳優と俳優同士のコミュニケーションの感じがそのまま作品の言葉に一致するところもあるし、全く一致しないところもあるし、それを人前にさらしてお客さんとコミュニケーションとっていくような、コミュニケーションの層がすごく多くて、それが作品になっていくんだということ。当時は、そんなこときっちり言葉に置き換えてわかってないですよ。なんとなく「みんなで一緒に1本つくるのって楽しいね!」「いっきに仲良くなるよね」みたいなことしかなかったんですけど。後々考えてみると、コミュニケーションの感じがそのまま反映されてく...そのことから考えれば、面白い作品をつくるということは、稽古場とか創作期間中にどんなふうにコミュニケーションを整えていくかであって、それを考えていくことなのかなぁと。これを追求していきたいって思ったんですね。
かなり奥深いものですね。そこが演劇をやめられない理由でしょうか?
奥が深い。好きでやめられないというのではなくて、いくらでも可能性がありすぎてやめられない。『やめられない』というと夢中になってやめられないということなんですけど、そうじゃなくてまだ試してないことがありすぎて、やめられないという感じでしょうね。

動物園に行く!という感覚で来てください

来場者の方に向けて「Zoo Zoo Scene」の楽しみ方のアドバイスなどありましたら教えてください。
まあ、無心で来て欲しいですね。昨年もそうだったんですけれど、お客さんの8割は、動物園なんて10年ぶりとか、久しぶりに動物園に来た人だと思うんです。で、残り2割のうちの1割くらいは、ものすごく熱心なリピーター、動物園が好き、動物園ファン。だから、楽しみ方というと「動物園に行く」という意識できてもらったらいいのかなあ。
演劇を見るというよりは動物園に行くというイメージですか?
そう、単純に動物園に行く。演劇がくっついているんだけれども・・・。ちょっと大人用のほろ苦い結末がついている動物園ツアーという感じで。動物園にとってはいい迷惑かもしれないのだけれども、ビターなテイストの動物園という気持ちで来ていただけるといいですね。
例えば、初めて演劇を見るよっていう人が来られたとして、その方に感じて欲しい面白さとは?
例えば、動物園で動物を見るのって多分楽しいと思うんですよね。同じように人間を見るのも楽しいよっていう、動物を見るのと同じ感覚で、人間を見るのも楽しいよというのが感じられると思います。動物を見るのと同じように見てもらえれば、「あんなこと言ってる」とか「かわいー」というような感じで見てもらえるんではないか、と。

横浜スタジアムでベケットの『幸せな日々』を

ずいぶん前から横浜での活動が多いように思うんですが、横浜で活動されるということに対する思いは何かありますか?
思いはね、強いですよ。まあ、これよく言いますけど、メンバー全員の住居が東京なんです。横浜まで一時間半ぐらいかけて通ってます。STでやってるときも、僕もずっと東京だったんです。横浜で活動することの魅力っていったい何なんだろう。でも、横浜でやる人がよく『東京と全然違う』って言いますね。
のんびりしているとか...
確かにのんびりしてる。なんかね、東京のほうはね、仕事の匂いがするんですよね。横浜は違うと思います。前に東京公演のあと横浜公演があったときに、メンバー全員「やっぱ空気が全然違うね、横浜と東京って」っていう話になって。どっちがいいのかわかんないですけどね。例えば、東京のお客さんって、最先端のものをチェックしてるとか、こいつらどんなもんなの?とか、一応押さえとく?とか。そういうファンも、まあいて当然とは思いますけれど、割合として多いですよね。横浜のお客さんはそんな感じがしないんですよね。当然初めてのお客さんもたくさんいるんだろうけども、非常になんかその、演劇、だけじゃなくほかのジャンルもそうなんだろうけど、芸術には適した街だなあと、いつも思うんですよね。やっぱ東京に比べて、なんだかんだでもろもろのサイズが小さいというか、顔が見える関係的なものが横浜にはある感じが・・・そういうこともないんでしょうけども。
ご実家は横浜で?
そうですね。住んでる方はよく『横浜って、中途半端な街だなぁ』って言うんだけれども、最先端を狙うわけでもなく、昔からの何とかっていうのに頼ることもなく、全然気が利いてないし、かといって老舗でもない。そういうのがいいなぁって感じがします。横浜って芸術が盛んですよね。好きです。芸術が盛んなんだけれども暑苦しくなくて。『横浜!』みたいなことは控えめみたいな・・・。控えめでもないのかな、横浜のレゲエの人たちを見るとかっこいいなぁと思うんだけれども、親しみやすい感じがある。横浜レゲエ祭とかも、なんでこんな親しみやすいんだろうっていうのはありますね。
今後やってみたいことや、挑戦したい作品はありますか?
あらゆる場所で言いまくってますけど(笑)。横浜スタジアムでベケットの『幸せな日々』っていう作品があって、ちっちゃい砂山に女の人が腰まで埋まっているという作品があるんですけれども、その作品を是非やりたいです。横浜スタジアムのマウンドで、女の人が埋まっているというシチュエーションで絶対にやりたい!
面白そうですね(笑)。
いつか必ず...というのがありますね。それは演劇じゃなくても、空間美術みたいなものでもいいんじゃないかと思っているんですけど。それをみんなで遠くから見る。芝居はやってるんですよ、でも声なんて一切聞こえないんですよ。オーロラビジョンとかでたまにスタジアムの客席のほうが映って、みんな手を振ってみたりとか。『カメラどこだ、そこか!』って(笑)。1年半くらい前からできればいいなあと思っているんです。スタジアムの前を通るたびに、「なんてデカイ劇場なんだ!」と思いながら、ライトの柱を見ると震えがくるんですよね。ここで俺はやろうとしてるのかって(笑)。

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