情報誌 毎月22日発行

9月号 / 2009

:表紙の人 奥田昌輝さん

09.08.18


アーティスト 奥田昌輝さん

アーティスト 奥田昌輝さん
Masaki OKUDA

プロフィール

1985 年横浜市生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業、大川原亮、小川雄太郎との合作『オーケストラ』が、2008年飛騨国際メルヘンアニメコンテスト優秀賞受賞、第12 回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査委員会推薦作品選出、第6 回テヘラン国際アニメーション映画祭ノミネート、東京国際アニメフェア2009 東京アニメアワード公募部門入選、アヌシー国際アニメーション映画祭2009 学生部門ノミネート。現在、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻在籍。

奥田昌輝さん作品「快楽の園」上映情報

ヨコハマ国際映像祭2009 セレクションプログラム
「現代日本のアニメーション集」山村浩二セレクション
日時:2009/11/7(土)15時、11/23(月・祝)15時
場所:東京藝術大学大学院映像研究科馬車道校舎
詳細→ヨコハマ国際映像祭2009

山村浩二の「私が推薦しました!」

音楽をメロディーやリズムによって色々な感性を刺激する抽象表現と捉えると、アニメーションもビジュアルの移り変わりによって音楽と同じような働きかけをする事に気付く。奥田作品は、夢やエロスといった形而下の感覚を音楽的なアニメーション表現で形而上に定着しようと試みる。そこには物語はなくても、観る人の感情を高揚させる力がある。また彼にとって、アニメーションは楽しい視覚的な遊び道具でもあるという喜びも感じさせる。


奥田昌輝、大川原亮、小川雄太郎《Orchestra》、2008年、6分40秒、アニメーション


奥田昌輝《快楽の園》2007年、2分30秒、アニメーション


奥田昌輝《雨と金魚》(現在制作中)、アニメーション

※ 「ヨコハマ・アートナビ」では、東京藝術大学大学院映像研究科の協力により、若手アニメーション作家をご紹介しています。毎月、登場する作家は、『頭山』や『カフカ田舎医者』で世界最高峰のアニメーション映画祭のグランプリを多数受賞した、山村浩二さんによるセレクション。2009年5より、作家のインタビューとともに動画を配信しています。(~2010年4月)

奥田昌輝さんが、大川原亮さん(本誌8月号掲載)、小川雄太郎さんと作った作品『オーケストラ』は、昨年以来、数々の映画祭等で受賞やノミネートを果たし世界で注目されています。奥田さんにアニメーションの魅力についてお話を伺いました。

情報誌「ヨコハマ・アートナビ」平成21年9月号表紙掲載作品
奥田昌輝、大川原亮、小川雄太郎《Orchestra》、2008 年、6 分40 秒、アニメーション

3人だからできた「オーケストラ」

このオーケストラを3人で作ろうと思ったきっかけは何ですか?
もともとオーケストラで使っているイラストレーションは、大川原くんと僕の絵ではなくて、イラストレーションをずっと描いてきた小川くんが描いていた絵なんです。大学2年生の必修でアニメーションをつくるんですけど、その時に小川くんがこの絵を動かしていたんです。でもその時は、動画の枚数が足りてなくて、全然動いてなかったんですけど、一部分だけ滑らかに動いたところがあって、大川原くんと僕はそれを見て、「小川くんのイラストを動かしたら絶対におもしろいものができる」と思っていたんです。その後、3年生の授業が終わって時間ができた時に、小川くんから『これで何か作れないかな?』と提案されたのがきっかけですね。大川原君と僕はもともと興味を持っていたので、即了解してつくり始めたんです。
小川さんの絵は「フニャズム」っていうんですよね。小川さんはご自身でアニメーションにしようとは思わなかったということですか?
そうですね。多分、動画を描く作業に面白さを感じなかったんだと思います。だからアニメーションに興味を持っていた大川原くんと僕に提案したんじゃないかと...。そういう意味では、小川くん一人では作れなかったし、僕らも絵のほうでは弱い部分があったので、3人だからこそできたのかなと思います。
3人は何がきっかけで集まった仲間なんですか?

全員「お」がつく苗字なんです。学校のクラス分けがあいうえお順で、それでたまたま3人一緒のクラスだったので自然に集まりましたね。お互いの作品を見る機会も多かったのもあると思います。

3年のときに提案してくれたっていうのは、何か意味があったんですか?

2年生の時には小川くんの作品に対して「動けばいいな」って思っていたんですが、その頃は作る時間がなかったんですね。そして、丁度3年生の授業が終わった時期、みんなが就職用にポートフォリオを作っている中で、僕ら3人は就職しないで大学院に行くと決めていたので、その時間を有効活用しよう!ということで始まったんです。

どうやってストーリーを膨らませていったんですか?
オーケストラを描くっていうのは、すんなり決まったんです。もともと小川くんの絵で、ヴァイオリンとか、コントラバスとチェロとか、楽器を演奏する人を描いていたので、音楽のイメージがすごく強くて、オーケストラっていう言葉が出たときに、3人が「あの絵にぴったり」と思えたんです。じゃあこれでいこうよ!っていうところからイメージを膨らませていったんですけど...。
そこからは結構難しかったですか?
結構時間がかかりましたね。本当に音をひろっていくっていう作業で、何回も聞きながら、イメージを出し合いつつ、あるイメージで3人が共有できない場合もあったり...。そういう場合はちょっと時間がかかりましたね。かと思えば、本当にスラスラと決まる部分あったりして。
どの部分がスラスラと決まってきました?
楽器を弾いているシーンとか。そのまんまなんで。そういうイメージっていうのはすぐに沸いてくるんですが、楽器から離れたところになると共有が難しかったですね。
3人のイメージが全く違うときもありましたか?
ありましたね。具体的には思い出せないんですけど、そこでいかに3人が納得できる案を出していくかという作業があって。
人の顔が犬に変わって、また人に戻ったとか、ベートーベンの顔がおじさんになってしまったり、そういうところがが面白いなと思ったんですが、そのへんは?
完全に遊びでしたね。
遊びを取り入れようと思ったのはなぜですか?
オーケストラやクラシック音楽に対して、固いイメージがあって、そういうものから脱したいな、おちゃらけたいなと思っていたんです。特に小川くんの提案だったんですけど、そこの遊びの部分では、アニメーションをやっている2人と、イラストレーションの小川くんとで意見が食い違うことが結構多かったですね。でも、逆に大川原くんと僕とでやっていたら、こういう作品はできなかったんじゃないのかなと思います。
音を拾っていって、イメージを膨らます作業の中で、ストーリーをつなげていこうというのはあったんですか?それともそれぞれの部分で見せようと?
それについてはかなり話し合ったんですけど、ストーリーものにするのか、音のみで音のイメージを並べていくのかってところで悩んでいたんです。結果的に楽器を演奏している部分というのと、音のイメージ映像的な部分っていうのに分かれていて、イメージの部分はバラバラなんですけど、それをつなぎ合わせるという意味で演奏しているシーンを入れて、そこにまとまりみたいなものを...。
確かに長い曲を聴いていると、色んなシーンが浮かびますね。では、無理に何かのストーリーにつなげようとしたりではなく、音から感じるイメージを大切にしているということですか?
そうですね。
3人がぶつかったところなどはありましたか?ここは譲れないとか...。
すごく細かいところなんですけど、波に巻き込まれるシーンがあるんです。あそこで3人の人物が波の中から現れては消えていく動きがあるんですけど、そこを、1度現れてきたところを止めてから落ちるのか、止めないで落ちるのかってところで、小川くんと僕とでぶつかりました。僕は止めないほうがいい、小川くんは止めたほうがいいって。今思えば、何でそこでぶつかったんだろうって思いますけど。
譲れなかったものは、何だったんでしょう?
わからないんですよね。その時期は制作に追われてて、編集と平行しながら作画をやっていて、締切まであと3日くらいしかないのに終わってなくて、どうしようって時で。作画が遅れていたんです。そういうイライラが溜まっていたのかなって思うんですよ。アニメーションの立場とイラストレーションの立場で衝突もあって、そんなのも原因のひとつだったのかなって思います。
分担は、小川さんが元になる絵を描いて、動かす絵をお二人が描いたってことですか?
基本的にはそうですね。シーンごとに動きの最初のもの、原画を描いてもらって、それを元に二人で動画を描いていくというやり方でやりましたね。で、時間の都合上、小川くんにも動画を描いてもらう必要があったんで、動きとして簡単な部分は、小川くんに描いてもらったり、シーンのつなぎの動画などのパートを担当してもらったりもしました。基本的には原画は小川くんで、アニメーションは大川原、奥田でやるという感じでしたね。
3人でイメージの共有をはかりながら作るのって相当大変だと思うんですけど、どうでしたか?

一人で作るのとは違う悩みがありましたね。イメージを共有するのに、相手の意見を聞くんですけど、その段階で大変だったこともありました。コミュニケーションがすごく大事になってくるというのが良くわかりましたね。ただむやみに相手の意見を否定するっていうのも良くないし、なんとなく自分がいやだなと思っていても、何故それがいやなのかという理由をきちんと話さないと説得力もないし、空気も悪くなってしまうんです。そういう難しい部分もありましたね。

良かった部分は、どのようなところですか?
イラストレーションで、自分ではあの絵は描けなかったっていうところが大きいですね。あとは単純に3人で作っているので、作業のスピードが上がるのでその分、動画枚数を増やせる。するとボリュームが出るというか、質量っていうんですかね。そういう意味では良かったですね。あの短い時間で作品を作り上げるっていうので。アニメーションは本当に時間がかかるので。複数の人数がいるとホントに助かりますね。

曲全体に脚本のようなものがあるよね

この曲はどうやって決めたんですか?
絶対にこの曲じゃなきゃっていうのはなかったんです。曲選びの基準として、クラシック音楽、交響曲で何分くらいというのを決めて、その時間内におさまっている曲を探していたんです。音の抑揚っていうのも大事にしてて、速さとか緩急があるような...。すると、音にドラマ性がでるというか、動きにも強弱がつけられるんで。3人で言ってたんですけど「曲全体に脚本のようなものがあるよね」っていう。最初は盛り上がって始まって、それが過ぎると静寂があって、また盛り上がって、その繰り返しの波が、溜まっていって、最後に大きなためがあって、クライマックスのビックウェイブがくるっていう。何ですかね。あれを何ていうかわからないんですけど。
選んだ曲には、抑揚や緩急がいっぱいあった?
ダイナミックな感じっていうのが良く出てて...。
最初から、抑揚があったり緩急があったりする曲ということで探していった?
いや、最初に探してたときは、とりあえずいっぱい選んだんです。あまり抑揚のない曲とかマイナー調の曲とかゆっくりな曲とか色んな種類の曲を入れてて、その中で話し合いながら候補曲を絞っていきました。それで、3人がいい!って言った曲がそういう抑揚があったりダイナミックな展開がある曲ばっかりだったので、そういった曲に絞って細かく選んでいきました。最終的にどれがいいかなってときに、作品に使ったベートーベンのあの曲には、溜めて...溜めて...くるか~~~?と思うと、また溜めてってというところがあって、ベートーベンっておちゃめだなって感じる構成があったからなんです。そんなところが"フニャズム"に合うかなって。固くないな~っていうのがあって、そういうとこで選んでいったっていうところもあったのかなって思います。
いいですね。その感覚。"曲に脚本があるよね"って思い始めたのは、作り始めてからですか?
そうですね。最初はそこまで意識してなくて...。個々のシーンのイメージを出し合いつつ、全体の構成を考えていったとき、盛り上がる部分があったかと思うと、その次に静寂がやって来る、その対比みたいなのがあって。静と動っていう動きが並べられてて、これって脚本なんじゃないかって気付いたんです。物語でもそういうのってあると思うんですが、見せ場っていうのはすごく動の部分だと思うんですけど、クライマックスにもっていくために静かな部分があって。曲も一緒だなと、曲に脚本があるよね~って。
それは大発見ですね。その「脚本があるよね」って気付いてから、その後の作品に何か影響というか、そういうものを大事にしようって思い始めたとかありますか?
そうですね。その後に作っているのは「雨と金魚」なんですけど、それも全体ではないんですけど、クラシック音楽を入れていて効果音も含めてなんですけども、ひとつの曲ではなく全体の中のいろんな音を組み合わせることによって、抑揚がついたり盛り上げさせたりっていうことを意識するようになってきたのかなっていうのはありますね。

ユーリ・ノルシュテインの「話の話」との出会い

小さい頃から絵を描いていたんですか?
そうですね。基本的に。ちょくちょく描いてましたね。
美大を目指そうと思ったのはなぜですか?

グラフィックデザイン科だったんですけど、高2くらいか、そのちょっと前くらいから何となく行きたいなと思っていて。絵を描くの楽しいしなぁというのが漠然とあって。グラフィックデザイン科を選んだのは写真やイラストレーションや映像とか色んなジャンルの授業があったからです。あと、高校の時の美術の先生が好きだったんですよね。最初の授業のときに「みんなお菓子持ってこないの?」って話から始まったり...。

授業に?
それで、この人好きだーと思って。その先生が映像を使ってインスタレーションをやっている人だったんですけど、映像にも詳しくて、そういうのが意外と今につながっているのかと思います。あと、僕の場合は、兄も映像を作る学校に行ってたんでその影響が一番大きかったのかな。正確には覚えていないんですけど、意識し始めたっていうのはあって、東京でノルシュテインの作品が上映される時に、たまたま兄に「行こうよ」って誘われて。好奇心で見に行って、そこで「話の話」っていう作品を見たんです。それが本当に衝撃的すぎて、映画監督への興味も広がっていた矢先でもあったんですが...。自分が思っていたアニメーションとは全然違うもので、これがやりたい!と思ったんです。それがきっかけです。
すごい出会いでしたね。

そこから、すぐには作らなくて、そういうアニメーションもあるんだっていうのを認識して、自分から積極的に見るようになったんです。学校の授業でもそういうものを扱っているのがあったんで、やっぱりいいなぁと思ってて、2年生のときに必修でアニメーションを作る授業があるんですけど、そこで作ったのが一番最初で、自分の絵が動くことが面白くて、やりたいなって。それがどんどん強くなって、今に至ります。

「オーケストラ」は、受賞したりノミネートされたりしてきましたけど、作品に対する感想とか、褒められてうれしかった言葉とかありました?
実際に音楽をやっている人からの反応がうれしかったですね。「快楽の園」でピアノの演奏を依頼しているピアニストの方から、オーケストラのイメージ的な部分は、演奏する側としてああいうイメージは沸かないんだと言われて、すごく新鮮でした。音楽をやっている人の反応はすごく気になっていて、あの作品を見てどう思うんだろうなって思ったり、あんなことをやってしまって怒られないだろうかと思ったりもしたので。うれしかったですね。
確かに曲を聞いてどういうイメージが沸くかというものを具体化したものって、あんまりないですね。演奏家ってどんなことをイメージして演奏してるんでしょうね?興味ありますね。コンサート会場に集まった人のそれぞれのイメージをこうやってアニメーションに出したら、きっと色々で面白いでしょうね。
いいですね、それ。

現実には起こりえない動きを表現できるアニメーション

テーマはいつもどうやって決めるんですか?今度の作品は「雨と金魚」ですが・・・
その時々で変わると思うんですけど「雨と金魚」の場合は自分が眠っていたときに出たイメージがあって...。
夢?

夢です。夢で出てきたイメージを映像化できないかと思っていて、実際に見たものを、映像として自分が見た通りに、感じた通りに限りなく近づけて表現したくて。そこから、どうしてこんな夢を見たのかな...というところを考えていったりして、イメージを膨らませていくんです。「快楽の園」の場合は絵からイメージが膨らんで、まあ、オーケストラもそうなんですけど。

アニメーションの面白さはどんなところだと思いますか?
色々あると思います。根本的には動きですね。絵が動くという驚きというのもあるんですけど、実写映像と何が違うかというと、動きに違いがあると思います。例えば、人が歩く動作にしても、デフォルメできるんですね。足がへんに伸びたり、しなったりとか、感覚的な生理的に感じる動きっていうんですかね、それが表現できるのがアニメーションの面白さかなと思いますね。
感覚的なイメージを表現できるってことですか?その感覚的なものは目に見えないものですよね。
アニメーションと記憶って、密接に結びついている要素だと思うんですが、動きのデフォルメっていうのは、リアルな動きではなくて、自分がその動きを見て記憶した『こんな感じのイメージだった』というような記憶に基づく動きというか...。自分としては、うまく説明できなくてもどかしいときなどに、アニメーションって便利だなと思います。
アニメーションは、可能性の幅が広いものですか?
そうですね。例えば映画との違いということからいえば、映画は連続して撮影したワンショットが1つの素材。でも、アニメーションは1コマ、1枚の絵が素材だから、ワンショットと同じ時間の中にも無数の素材を込めることができる。その分、流れる時間が濃密になるんです。コマ単位で作っていけるというのが大きいとこなのかなって。
今後やってみたいことや、挑戦したいとはありますか?
今、迷っているところなんです。今後どうやっていくのかって...。音と映像との関係っていうのは、オーケストラも含めて、一貫して考えてきたことなので、それをもっと掘り下げていきたいですね。そこから新しい発見を見つけていければと思っているんですけど、その先に何があるかは、今の段階ではわからないです。そこを突き詰めたいですね。
それはアニメーションで?
アニメーションで。実写映画にも興味はあるんですけど、アニメーションを作っていくうちにアニメーションにしかない面白さっていうところが作る度に発見できるので、アニメーションでしか表現できないことを探っていきたいと思っています。

(2009年7月 横浜にて)


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