情報誌 毎月22日発行

5月号 / 2009

:今月の表紙 和田淳さん

09.08.18


アーティスト 和田 淳さん

アーティスト 和田 淳さん

プロフィール

1980年神戸生まれ。大阪教育大教養学科美術コース卒業。2004年『蠕虫舞手』 ASK映像祭2004 大賞受賞、05年『蠕虫舞手』文化庁メディア芸術祭 審査員会推薦作品 、『鼻の日』バンクーバー国際映画祭 招待上映 、06年『鼻の日』 文化庁メディア芸術祭 審査委員会推薦作品/イメージフォーラムフェスティバル 奨励賞/オーバーハウゼン国際短編映画祭 コンペ入選/ノーウィッチ国際アニメーションフェスティバル Short Film部門Best Short Film受賞。現在、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻在籍。間を測るのが好きで、日本間隔測定協会を思いきって空想上に設立。実現をめざしている。
和田 淳さんWEBサイト:「こどものなかのこども」
http://codocodo.com/

和田淳さん作品「鼻の日」上映情報

ヨコハマ国際映像祭2009 セレクションプログラム
「現代日本のアニメーション集」山村浩二セレクション
日時:2009/11/7(土)15時、11/23(月・祝)15時
場所:東京藝術大学大学院映像研究科馬車道校舎
詳細→ヨコハマ国際映像祭2009

山村浩二の「私が推薦しました!」

和田作品は、細い線で描かれた繊細な絵と、デリケートな効果音で見るものを引きつけていく。無表情の登場人物が儀式にも似た動作を繰返すうちに、予想を越えていながら、なぜか納得してしまう展開が起こり、その瞬間独特のユーモアが立ち上がる。本人が大切にしている「間」が、一瞬の思考停止を促し、我々が言語を獲得すると共に心の奥底に追いやってしまった原始的な感覚が覚醒して、こちょこちょとどこか変な部分をくすぐるのだ。


《鼻の日》2005年、10分、アニメーション


《そういう眼鏡》2007年、5分40秒、アニメーション


《春のしくみ》(現在制作中)、アニメーション

*「ヨコハマ・アートナビ」では、東京藝術大学大学院映像研究科の協力により、若手アニメーション作家をご紹介しています。毎月、登場する作家は、『頭山』や『カフカ田舎医者』で世界最高峰のアニメーション映画祭のグランプリを多数受賞した、山村浩二さんによるセレクション。2009年5月より、作家のインタビューとともに動画を配信しています。(~2010年4月)

今月号から、世界的アニメーション作家の山村浩二さんがイチオシする若手アニメーション作家をご紹介してまいります。初回は、味のある世界が海外でも高い評価を得ている和田淳さんにお話を伺いました。

情報誌「ヨコハマ・アートナビ」平成21年5月号表紙掲載作品《鼻の日》2005年、10分、アニメーション

「誰が呼ばれるんやろ?」~ノーウィッチ国際アニメーション・フェスティバル 受賞秘話~

ノーウィッチ国際アニメーション・フェスティバルの時「鼻の日」に賞が決まった瞬間は、どんな感じでした?
絶対ないと思っていたんです。でもなぜか一番前に座っていて「誰が呼ばれるんやろ?」という感じで発表を待っていました。始めに審査員の人が違うタイトルを言って、英語がわからない僕はそれが受賞作と思い込んでいたんですね。そしたら、自分の名前が呼ばれてて、もう、何も用意してないし、用意したところでしゃべれないし...。
受賞したら、ひとこと言わなきゃいけないんですね。
壇上に上がって、スピーチみたいなことをしなくちゃいけなくて、もうパニックでした!
その時に、いただいたコメントや言葉で印象的だったものはありますか?
実際、あまりしゃべってないんですよ。しゃべれないので避けてたっていうのもあるんですけど
「Congratulations!」くらいかな。(笑)
他の上映会などで、うれしかったコメントはありますか?
なんかあったかな...。あんまり人としゃべっていなかったし、しかもコメントをもらっていても、舞い上がってるというか、その対応に必死であんまり覚えていないんです。「間がいいね」とか、言ってもらってるはずなんですけど、具体的になんて言われたかはわかりません。(笑)

自分の絵で「間」を表現したい
~アニメーションをつくりはじめたきっかけ~

和田さんの「こどものなかのこども」というホームページで、アニメーションをつくりはじめたきっかけが「落書きが動いたらいいなぁと思ったこと」と書いていらっしゃいますが、そのあたりを詳しく教えてください。
アニメーションを昔からやりたかった、というわけではなかったんです。大学では、一応、美術コースだったんですけど、あんまりこう、しっくりしていなくて。そんな時に、自分の中で納得できたなぁと思った絵が、ノートの端に描いた落書きだったんです。それを時間軸にのせて映像にしてみたい、自分の絵で「間」を表現したいなと。それではじめたのがきっかけです。例えば、誰かが振り向くときにどんなタイミングで振り向くのか、音がして振り向くのか、ただなんとなく振り向くのかなど、ちょっとした「間」の違いで周りの空気や、その人の個性を大きく変えてしまうことってありますよね。その違いだけで成り立つ面白さっていうのがあるんじゃないかなと思って。動きで見せるっていうのができたら、初めはそれだけで満足だったんです。
間のほうが先だったんですね。
そうです。なので、一番最初につくった作品は、アニメーションの動きとしては、ほぼ動いていなくって。
その「動いてない」っていうのは、連続した動きになってなくて、カットは続いているんですよね?
単純に言ったら、下手なんです。(笑)
それはアニメーションにすることを意識したわけではなくて、ただ時間軸に並べてみたということですか?
そうです。たまたま、僕が行っていた大学がアニメーションを教えるところでもないし、そういう道具もないので、全くひとりで勝手にやっているという感じだったんです。技術的なところは全然わからないままはじめているので、厳密にいうと「勝手にできた」っていう感じですね。
その「勝手にできた」ときの作り方はどんなふうだったんですか?
初めは、その落書きをスキャンして、それでフォトショップとかで加工して、それから時間軸に並べるっていうだけのものでした。ま、今もそのあたりは変ってないんですけどね。
いつからアニメーションにしようと思ったんですか?
徐々に技術的な面でも、ちょっとずつうまくなってきたり、動かしてみせる魅力なども見せていきたいなと思ってからなので、1年とか2年経った頃ですかね。
何かきっかけがあったんですか?
自分でつくっていくうちに、その必然性が出てきて、それがきっかけだったという感じです。つくり続けていくうちにそういうふうになっていったんだと思います。
音楽もご自分で作られているんですか?
はい。音楽は、絵と同じくらい大事な要素なんです。生音にこだわっているんですが、手探りでやっています。例えば、うねうねするときの音やプリンッていうカタツムリが殻から頭を出す音など、うまく説明できない音は、自分で出してみないとわからない音なんです。部屋の中で、机や椅子の手すりや、自分の身体をペチンとたたいたり、いろいろ試して音を選んでいます。家で録音すると雑音が入ることがあるので、スタジオを借りて取らないとなと思うんですけど、スタジオだと時間が限られていますし、そうやっていろいろゆっくり試していられないかなぁと思って。
作品に会話やナレーション、つまり、語られる言葉が出てこないのはなぜでしょうか?
「言葉」が持つ力が非常に大きいという点です。言葉はそれ自体が画面、映像にもたらす影響がとても大きく、強いんです。例えば、カタツムリでもカエルでもいいんですが、何かしゃべったとして、それがどんな声質なのか、高さなのか、何語なのか、どんなイントネーションかなどで、それがはっきりとしたキャラクターになると思うんです。ナレーションでも言葉でちょっと説明するだけで、ここはどこで、どういう状況でっていうのがすぐわかる。それは言葉の持つ優れた点であるとともに、僕にとってはちょっと強すぎる道具になるのです。もちろん使うべき時は使うつもりですが、どちらかと言うとキャラクターにせよ状況にせよ、なるべく抽象性を保っていたい、絵としては確かにそこにいたり、あるものだけれど、その意味をあまり限定したくないと思っているので、そこにあまり限定してしまうような言葉は使わないようにしています。
僕は「言葉」が本当に好きで、タイトルなどもそうですが、それを考えるのはとても楽しい作業なんです。それだけに、作品内で使うことに対して、非常に慎重になるんだと思います。特に日本語が好きなのですが、その字面や響き、言い方、意味など日本語じゃないと伝わらないことが多いんです。でも外国の人にも見てもらうには、その日本語を使っていたのではわからないので、じゃあ言葉よりも動きやシチュエーションの面白さや発想などで勝負しようとなるわけです。

「間」を表現できるアニメーション

ところで、和田さんが空想上に設立したという「日本間隔測定協会」で、実際にやった測定ってありますか?
日本間隔測定協会は、目に見える、形に残る活動はしていないのですが、「間」についてもっと注意深くなろう、常に「間」を感じながら制作しようという心の持ちようという意味での活動はしています。協会に入るには研ぎすまされた「間」が必要となりますので、なかなか協会員が増えず、今のところ僕一人です。(笑)
和田さんが思う「間」とは、何でしょうか?
言葉で表現するのは難しいんですけど、例えばさっきまで満面の笑みでしゃべっていた人が何かをきっかけに急に怒りだしたとしたら、周りで笑っていた人も顔が引きつったりして、その場の空気が変わると思うんです。その緊張と緩和のギャップ、空気感や緊張感を一変させるような間。そんな間が好きなんです。実際に映像にしたり、アイデアを頭の中で浮かべているときに、はっとするというか、ぞくっとするような瞬間。それぞれにあると思うんですけど、僕にもあって。それを、こういうものだって言うのはなかなか難しいんですけど。
和田さんの作品を見ていて、ぞくっとしたり、かわいいと思ったり、その「間」によって感じるものがあったんですけど、何でしょうか。
多分、自分の中でパターンとか定義みたいなものがあるのかも知れないんですけど、決めてしまうと面白くなくなるんです。なので、自分の中で、常にそのときに思った間で作らないと新鮮さがなくなるというか、なるべく、そのときにと思っています。
つくっていって「あ、この間は違うな」と、間のとり方を変えたりすることもありますか?その微妙な間の調整は?調整の幅は?
そうですね。やっぱりコマですね。フィルムだと1秒に24コマ、ビデオだと30コマあって、その何コマ分で調整とか、コマ単位で決めていくんです。それは僕だけじゃなくて、みんなやっていると思うんですけど。

「鼻の日」完成までの道のり

「鼻の日」の原画は、半年かけて1,000枚以上描いたとお聞きしたのですが、それは、毎日描いていたんですか?
その時は、そうですね。だいたい家で描いてましたね。どちらかというと手が遅い、描くのが遅いほうなんで、やらないと間に合わないんです。
毎日描き続ける中で、新鮮さを保たなければいけないっていうのは、すごく難しいことですね。
そうですね。最初にガチっと決めても変わるものがあったり、途中で、良いふうに転んだりするときもあるので、取り入れていきたいというのも、ひとつあると思うんですけど。
作っていく中で変っていくこともあるんですか?
ありますね。これが良いか悪いかは、わからないんですけど、最後のオチみたいな結末を漠然とさせておいて、それで作り始めて、作りながら変っていくときもあります。
ときもある?ということは、最初からこういう構成でいこう!と決めてから作るときもある?
はい。
鼻の日はどっちだったんですか?
その頃は、学校(専門学校)に行ってまして、それでいったん作れた!と思ったんですけど、友達から「最後は変えたほうがいいんじゃないか」とかいうダメ出しがあって、実際、結果的には変えたほうが良かったんで、良かったんですけど「鼻の日」に関しては、自分の意思でというよりは、人の意思で変ったっていう感じですね。
見てもらうことって、大事なんですね
どうなんでしょうね。基本的に僕はあまり人に相談しないほうで、ほんとにひとりで作っていたんですね。それから大学院に行って、そこでは僕も学びたくて行っているので、見せる機会がたくさんあるんですけど、それが良いのか悪いのか、どっちなのかっていったら、わからないです。最後に決めるのは自分ですし。
でも、作った作品は、色んな人に見てもらいたいと思いますか?
それはもちろん。はい

短編アニメーションは「丁度いい感じ」

短編アニメーションにこだわっていますか?
こだわっているというわけではないんですけど、このテイストで長編は無理だろうというのはあります。それは自分的にも。多分、描いていくときにもしんどくなると思います。一度やってみたことがあるんですけど、短編でできることと、長編でできることって違うと思うんです。
短編の魅力はどんなところですか?
何でしょうね。間だけでいうと、長編でもできるんだと思うんですけど、そういう絵と動きとか内容も含めて、結果的になんですけど、短編にしかできないようなところだと思うんです。どう説明したらいいかわかんないですけど。
和田さんのやりたいことが、短編に合ってるということでしょうか?
そうですね。あんまり短編、短編というふうには、意識はしてないですけど、やっぱり5分とか10分以内でしか作ってない、作れないというか、丁度いい感じかなというのはありますけど。
ストーリーは、どんなふうに考えていらっしゃいます?例えば、ちゃんと起承転結がなきゃいけないとか...。
最近の作品でいえば、まず先に、あるシチュエーションとか、ある動きが浮かんでそれから発想してみたりします。
シチュエーションや動きとは、具体的に言うとどんなものですか?
例えば、羊にえさをあげてるとか。何でもないシチュエーションなんです。最近は気持ちいい動きって何だろうって思っていて、自分の中で気持ちいい動きを追求して、そこから浮かんできた絵に話なり、展開をつけていくという感じです。

余韻・予感をかもし出すような作品をつくりたい

最初からアニメーションをやりたくて始めたわけではないということですが、でも今は表現の手段としてアニメーションはしっくりきていますか?
そうですね。
じゃあ、今後もずっと、アニメーションを続けていこうと思っていらっしゃる?
そうですね。アニメーションが一番いいんじゃないかと。
これからやってみたいことはありますか?今すぐでもなくてもいいんですけど。
一枚としての絵も描いてるっていうのもあるんですけど、そういうのを描いていけたらなと思います。例えば、絵本とか、漫画でもいいし、色んなことをやってみたいとは思ってます。
1枚の絵としても、描いていらっしゃる?
たまに描きます。
それはじゃあ、絵として個展をやったりとかもあるんですか?
その絵と上映と両方の個展のようなものをやったりはしてます。
原画展とかでなくて、完全に独立した絵として?
そうですね。でも、一度「和田さんの絵は、アニメーションを見た後に見ると面白いよね」って言われたことがあります。やっぱり、最初にアニメーションを見て、その後にその絵を見たら、動くんじゃないかというふうに見えるらしくて...。
動いて欲しいとか、動いたときにうれしいと思うのは、みんなに共通しているのかも知れませんね。
1枚の絵を描くときでも、1枚の絵のみでなく、前後のストーリーというよりは、シチュエーションというか、余韻とか予感みたいなものを出したいと思ってしまうんで、絵にもそれが出ちゃうのかなと思います。これまでも、浮かんだテーマでずっとやってきたことでもあるんですけど、今回の修了制作でも余韻や予感をかもし出すような作品を作りたいと思います。

(2009年1月 横浜にて)


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