メニューを飛ばして本文へ

ヨコハマ文化情報 Yokohama's Cultural Information

情報誌の紹介 バックナンバー


横浜アウトリーチ活動

教育現場でのアウトリーチの可能性

 美術館や博物館などの文化芸術施設やアーティストが、芸術に接する機会のない人々に、通常の公演や展示とは異なる形でアプローチすることをアウトリーチ活動という。特に子どもを対象にしたアウトリーチ活動は、次世代の芸術ファン育成という目的のほかに、子どもの感性や創造性を高めるという教育的観点からも需要が高まっており、横浜でも多くの小学校で子どもたちが様々なジャンルの芸術に触れる機会を得ている。
横浜美術館概観

 横浜美術館が行ったのは『銅版画家・長谷川潔展』に合わせた出張授業。
「長谷川潔は横浜・戸部で生まれ育ち、世界で認められた版画家。偉大な先輩の存在を知ることで、展覧会に足を運ぶ機会の少ない小学生に美術を身近に感じて欲しいと企画しました」(横浜美術館学芸員 沼田英子さん)
 西区・戸部小学校で行われた授業で、子どもたちは長谷川潔の生涯や銅版画の技法を学び、作品を鑑賞した。子どもたちからは、作品の特徴を見事にとらえた感想が集まり、特に、ニードル等、彫刻の道具や技法についての興味が高かったという。
「これからの美術館にとって、小・中学校との連携は非常に大切です。学校教育の中で、芸術分野の授業時間はどんどん少なくなっている。美術や音楽など、豊かな文化を学ぶ機会が少ないのはとても残念なことです」(沼田さん)


写真:にぎわい座空高座(正面) にぎわい座空高座(正面)  横浜美術館は小学生以下の入場料を無料にしている。学校の休みに合わせて、ワークショップも開催し、常に子どもへのアプローチは行っているが、もっと多くの子どもたちに美術に触れてもらうには、美術館から外に出たところでの活動が重要になってくるだろう。
 南区・永田小学校では、劇団文学座の演出家、西川信廣さんを迎えて、演劇・朗読体験プログラムを実施した。
「人間の言葉の力、声の力、想像の力がテーマ。人の声、動きを感じながら、表現するという、演劇が培ってきたコミュニケーションの方法を実感して欲しい。子どもが対象だからといって、普段やっているワークショップと手法は変わりません」(西川さん)
 ゲーム形式で声を出し身体を動かしながら、言葉の使い方、声の出し方、コミュニケーションの方法を意識するところからプログラムは始まる。
 「文章を細かく分け、連係プレーで朗読します。うまくつながる時、つながらない時がある。そこにおもしろさを見つけて欲しい。今の子どもたちには人と人の触れ合いが足りない。人が集まって何かをすることはやっかいだけど、だからこそおもしろいんですよね」(西川さん)



 総合学習の授業の中で、プロの噺家に落語を教わり、最終的に寄席に出演したのは中区・大鳥小学校の子どもたちだ。
「きっかけは昨年7月の横浜にぎわい座で小学生を招いて落語を聴かせるプログラムを行ったことです。総合学習の成果を発表する校内イベント(12月)で何をやろうかと話し合う中で、子どもから“落語をやってみたい”という声があがりました」(大鳥小学校教諭 新田晋さん)
総合学習の目的のひとつは、子どもたちを本物に触れさせること。落語芸術協会に協力を仰ぎ、三遊亭遊吉師匠らから直接指導も受けた。

 また、この3月には、プロの噺家の前座として横浜にぎわい座で落語を披露する機会も得た。
「苦労して覚えた題目を声に出して人の前で語る。さらに磨きをかけ、どうやったら人を話に引っ張りこめるか、身振り手振りも合わせ工夫して表現する。学習材として、落語は非常に魅力がありました。今後もお囃子や舞など、地域の文化芸術に子どもたちを触れさせたいですね」(新田さん)

“わかるひとだけわかればよい”と限られた愛好家だけを対象にしていては、芸術の裾野は広がらない。芸術が生活の中に根付き、より人々の身近なものになるために、アーティストの発表の場はさらに学校や地域に広がっていくことが望ましい。教育現場からのニーズもある。両者のマッチングが進み、更にアウトリーチ活動が活発化することは、将来の文化芸術を支える土壌に大きな影響を及ぼしそうだ。




記事・写真等の無断使用・無断転載はご遠慮ください。